「みんなのアムステルダム国立美術館へ」

 気になっていた映画「みんなのアムステルダム国立美術館へ」を観てきました。

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 アムステルダム国立美術館は、2004年に全面改修が始まり10年もの閉館を経て、2013年ついにグランド・オープン。

 改修工事をめぐって、館長、建築家、サイクリスト(オランダは自転車大国とのこと)、学芸員、内装家、市民等が、それぞれが主張を譲らず工事は中断…。映画はこの一大騒動のドキュメンタリー。

 何と言っても各分野のスペシャリストである登場人物が個性的で面白い。一家言ある人達ばかりだから当然意見の対立も生まれ、お互いそうそう妥協はしません。

 改修以前、美術館を貫く公道を自転車で自由に通っていた市民は、新しい通路の計画で自転車走行に支障があると断固反対、計画は何度と無く覆される。サイクリスト協会との交渉がなかなかの見ものでした。立場の違い、美術館に対する価値観の違い、果てしなく遅れる工期に美術館側の人間がウンザリ、悪しき民主主義だとぼやく始末…

 人間関係のゴタゴタをよそに、日本の金剛力士像に愛情と敬意を注ぐアジア部門の部長は一服の清涼剤のごとく純粋で微笑ましく、修復家の完璧で情熱的な仕事ぶりは圧巻でした。

 いやはや、人間相手が一番厄介で、コジレるってことが痛いほど分かります。ひたすら美術品に向かい難しい作業を遂行するのは、むしろ羨ましいことのように思えました。

 お国柄なのかどうか知らないけれど、こんな国家的な事業なのに、どう見ても見切り発車的にスタートした感が…。もっと各方面の合意を確実にし地盤を固めてから、というのは日本的な考えなのでしょうかね。

 とは言え、あれほど頑固に反対派がいて、しかもそれを最大限に尊重して完全合意(妥協でさえも)を待って事業を始めたとしたら、相当な年月がかかりそうです。それなら、ある程度のところでスタートし、問題が起きたらその都度本音の議論を重ね、計画を練り直し、完成させていっても大差ないのかもしれません。

 しかし、ここからがオランダの底力とも言うべきか、忍耐強く進めていくその先にあるものは、正に「みんなのアムステルダム国立美術館」ということなのでしょう。

 ふと、日本で国立美術館にそれほど市民が関わって何かをすること、過去にあったのか、これからもあるのか、と思いました。

 映画は深刻な事態なのにどこかユーモアがあるのが良いところ。まあ、工事に莫大なお金が費やされたことだろうから、この映画自体が収入源だし、最高のPRとなって多くの人がアムステルダム国立美術館を訪れたくなる事間違いなし。現に見終わって友人と「行ってみたくなるよね!」と頷きあいました。

 ところで、もう一つ美術館を撮影した「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」(公式HP http://www.cetera.co.jp/treasure/)という映画が公開中。

 こちらは「みんなの~」のような奮闘記ではなく、その魅力を余すところなく映し出したという感じ。予告編も魅力たっぷりで、是非こちらも見てみたいです!

公式HP 「みんなのアムステルダム国立美術館へ」

 「みんなのアムステルダム国立美術館へ」” に対して2件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >きよぴーさん
    > 『数年前「ようこそアムステルダム美術館へ」を見ました。
    そうでしたか。私は見逃してしまったので、今回は是非という感じでした。

    > 真剣に議論を重ねる人々、真剣であるが故に、
    > なんだか笑える場面もあって印象的な映画でした。
    「みんな」も同じテイストじゃないかと思います。映像に残るのに結構本音でしたよね。

    > 美術館が自分たちのものであるという意識、日本にはないものですね。
    そうですね。どちらかと言うと見せてもらうっていう感覚でしょうか。

    > 「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」もぜひ、ご覧になって下さい。
    きよぴーさんのお墨付きで、見ずにはいられないですね。

    > 自分がその場に行って鑑賞しているような気分になりました。
    おおっ、アムステルダムの方はあまり作品については無かったので、期待大ですね。

  2. きよぴー より:

    数年前「ようこそアムステルダム美術館へ」を見ました。
    今回の「みんなんのアムステルダム美術館へ」は、
    前作と共通する部分もあるのでしょうが、「ようこそ・・・」のその後もあるのでしょうね。
    「ようこそ・・・」の時は改修が終っていなかったので、その後が気になります。
    真剣に議論を重ねる人々、真剣であるが故に、
    なんだか笑える場面もあって印象的な映画でした。
    美術館に対する、意識の違いにも驚きました。
    美術館が自分たちのものであるという意識、日本にはないものですね。

    「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」もぜひ、ご覧になって下さい。
    美術館スタッフによる、ギャラリートークは印象的でした。
    自分がその場に行って鑑賞しているような気分になりました。
    また、修復師さんが言葉も記憶に残っています。

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