[展覧会] 「春の江戸絵画まつり ほとけの国の美術」

府中市美術館で開催中の「春の江戸絵画まつり ほとけの国の美術」を観てきました。

「ほとけの国の美術」といっても、いわゆる仏画や仏像の仏教美術の展示ばかりではなく、若冲や蘆雪のユニークで可愛い動物を描いた江戸絵画も観ることができる展覧会です。そして、その可愛い江戸絵画にも根底には仏教の影響があるといいます。仏教が長い年月をかけて如何に日本人の心に根付いてきたということで、それは現代の私たちの心の奥にも無意識に染みこんでいるのかもしれません。

最初の展示は京都市・二尊院の《二十五菩薩来迎図》で、菩薩が軽やかに並ぶ様子は洗練された美しさがありました。菩薩のしなやかな身体には金色が塗られ、金箔を細く切って貼った截金(きりかね)で模様が付けられています。踊るような肢体はどこかインドの神様を連想させました。
来迎図は臨終に際し善人であれば極楽浄土からお迎えが来るという教えを具現化したものですが、それが臨終にある人の心を安らかにしたとしたら救いですね。仏教に限りませんが、宗教美術は美術品として鑑賞することよりも生活に密接にかかわってこそ価値があると思います。一般の人が享受できない宗教美術は単なる権威の誇示か贅沢な趣味のように感じます。

今回、私が一番興味深かったのは金沢市・照円寺の《地獄極楽図》です。源信の『往生要集』の内容を図示したもので、江戸時代後期の制作だそうです。
極楽の天道から人道、阿修羅道を経て数々の地獄まで、一幅が横1m、縦2.3mの大作が18幅。ずらりと掛けられていて大迫力でした。
天道の図では建物が異国の象徴である四角いタイルで表され、生えている植物も南国風なのが面白いと思いました。解説を読むと天道に行った人も輪廻転生のために死があるそうで、次第に衣が汚れ、髪飾りの生花が枯れ、目を患ってやがて死ぬと書かれていたのが印象的でした。言われて図を見てみると、川辺にくたびれた衣を身に着け、うつむいて目に手を当て座っている人がいるではありませんか、周りには枯れ落ちた花も散っています。天道が美しい空間だけに何とも哀れな様子でした。

人道ではこの世の無常を説いたり、煩悩隠滅のために描かれたという九相図がありました。九相図は女性が死んでから地に帰るまでの段階を9つに分けて描いたもので、かなりグロテスクなものが多いです。今回は一幅のうちに9相が収まっていました。

青白い死顔の死体から始まって、身体が膨張し、破れ蛆が湧き、野犬や鴉に食われ、骨となって地に埋もれるという変化があり、そこには当然時間が存在しています。私はこの時間の経過を四季の草木を描いて表していることに感動しました。
日本の風土に根差した日本人ならおのずと分かる感覚ではないでしょうか。時間は図の上から下へ春夏秋冬と過ぎていきます。私が確認できた草木は、サクラが散るところから、タンポポ、スミレ、つくし、コウホネ、スカシユリ、アサガオ、ナデシコ、紅葉、ススキ、アワ、オミナエシ、リンドウ、ミヤコワスレがありました。おぞましい死体の傍には可憐な花々が何気なく咲いているところに日本人の繊細さとやさしさを感じるとともに、人も草花も生まれては死ぬという自然の摂理の裡にあると思いました。

さてメインは地獄の数々の図です。恐ろしいことに地獄も等級があって、1つの罪を犯した者は等活地獄、2つの罪を犯した者は黒縄地獄、3つの罪は衆合地獄と進み、確か8つくらいまであったと思います。等活地獄でも地獄ですから鋭い針山に刺さって血まみれになり、鬼に身体を切り刻まれて血みどろになるという惨劇が繰り広げられています、おまけに鬼が「活々」というと責め苦で死んだ人も生き返りまた地獄の苦しみが始まるそうです。さらに罪が一つ増えると地獄もグレードアップしてその苦しみは10倍づつ加算されていくそうです、、、とりあえず善人でいようという気になります。

どの地獄図も紅蓮の炎と流血の「赤」が目に入り、これでもかというほどインパクトがあります。鬼のダイナミックな動きや、罪人が落下し逃げ惑う姿は画面に動きを与え、罪人の苦悩に歪んだ顔や身体は見るものに一種の緊張感を強いるものです。地獄をめぐる人間の想像力とサディスティックさには脱帽です。
極楽図は静で地獄図は動と言えると思いますが、いきおい絵師も極楽図を描くより生き生きと楽しみながら描いているように思えましたね。それほど熱量の違いを感じたことも面白かったことの1つです。

江戸絵画では曽我蕭白の《雪山童子図》、原在中の《寒山拾得》、河鍋暁斎の《波乗り観音図屏風》が印象に残りました。もう一つ、今までその良さが分からなかった素朴な円空の仏像がとても好きました。
会場を出るとワークショップがあって「ポケットご本尊作り」と「涅槃図の動物たちの塗り絵」を無料体験することができるようになっていました。
ご本尊は手のひらに乗るくらいのサイズで、三つ折りにして金色の雲のスタンプを押して作り、塗り絵はお手本を見ながら色鉛筆で仕上げます。思いがけず楽しい時間を過ごすことができました。

 

府中市美術館 「春の江戸絵画まつり ほとけの国の美術」