[展覧会] おいしいボタニカル・アート展

新宿のSOMPO美術館で開催中の「おいしいボタニカル・アート」展を見てきました。

「おいしい」と銘打っているだけあって、花が主体のボタニカルアート展とは一味違った面白さと豊かさ、親近感がありました。
作品は食生活に欠かせない穀物から野菜、果物、コーヒーなど喫茶にかかわる植物、薬草と多岐にわたっており、それらの背景にあるプラントハンティングや負の歴史にも触れる内容となっていました。さらにヴィクトリア時代の調理法を記したレシピの展示やテーブルセッティングなどの演出もあり、「おいしい」をより楽しめる展示となっています。

今回特に私が見たかったのはウィリアム・フッカー(1779~1832)の『ポモナ・ロンディネンシス』(ロンドンの果物の意)です。
『ポモナ・ロンディネンシス』はロンドン近辺で栽培されている果物についての解説文と手彩色された銅版画を載せた書籍で、リンゴ、洋ナシ、プラム、モモ、ネクタリン、サクランボ、ブドウなど13種類49点の果物が描かれており、本展ではそのうちの40点展示とのことです。

フッカーの作品は安定した構図と正確な描写に加え、鮮やかな色彩でみずみずしく艶やかです。単なる説明図としてではなくアート作品としてじっくり見ていたいと思わせる魅力、人を惹きつける力に溢れているように思います。

 


リンゴ「ホーソンデン」 スティップル・エングレーヴィング、アクアチント、手彩色/紙



サクランボ「エルトン」 スティップル・エングレーヴィング、アクアチント、手彩色/紙


アプリコット「ムア・パークパーク」 スティップル・エングレーヴィング、アクアチント、手彩色/紙

残念ながらフッカーの原画の展示はありませんでしたが、フッカーが由来である絵具のフーカスグリーン(フッカーズグリーン等)の美しさを感じることができたように思います。
また有難いことに『ポモナ・ロンディネンシス』は写真撮影可となっていたので、作品画像は写真に撮ったものをトリミングして載せました。

フッカーの他で印象に残ったのはピエール・ジャン・フランソワ・テュルパン(1775~1840)です。ボタニカルアートというより詳細なボタニカルイラストレーションといった感じで、優美さのあるフッカーに対してシャープで洗練された印象があり、正確で細密な描写には驚くばかりでした。

ところで、大航海時代を含めたボタニカルアート展を見るとき、しばしば現地の画家が描いた植物画の展示を見ることがありました。描画に陰影法があまり使われていないせいか、語弊はありますがちょっと稚拙な、プリミティブな味わいの作品です。本展でそれらの一連の作品が「カンパニー・スクール」と呼ばれる東インド会社が植物学者を伴って調査する際に現地の画家に描かせたもの、と説明があり合点がいきました。

新宿は相変わらず混んでいましたが、美術館はとても空いていたのでじっくり見ることができました。フッカーの部屋に自分一人の時は独り占め感にワクワクしてしまいました。
ゆっくりと作品に没入できる時間の大切さを実感した展覧会でした。

 

おいしいボタニカル・アート食を彩る植物のものがたり

 

[展覧会] おいしいボタニカル・アート展” に対して2件のコメントがあります。

  1. kyou より:

    いつもありがとうございます。
    先生方の展覧会、今度拝見してみます。色々勉強できますね。
    カタログでノッダーの大麦を改めて見てみると構図がいいですね。
    私が行った時も空いていてゆっくりできました。仕方がないことですが、混んでいる展覧会は辛いです。
    じっくり作品と向き合える時間は最高ですね。

  2. ワイン より:

    こんにちは!私も12月28日にこの展覧会を見に行きました。最初、京王プラザホテルで先生たちの展覧会(これまでは小田急で開催されていた)を見て、その足でSOMPO美術館へ。年内では28日が最後だったので、本当にラッキーでした。
    W.フッカーの果物の植物画は、とても趣があって色も美しく、素敵でしたね。その他、私が印象に残ったのは大麦を描いた作品です。イネ科の植物を中心に描いたフレデリック・ポリドール・ノッダーによるもので、『フローラ・ルスティカ』という本もとても美しいと思いました。
    食べ物になる植物を描いたボタニカルアートという切り口は、親しみやすく楽しい展覧会ですね。でも、見ている人たちは皆真剣に作品に見入っていて、とても静かでした。私は残念ながら写真を撮らなかったので、かわりにポストカードを買ってきました。家に帰ってそのカードを眺めながらニンマリしていました。

コメントは受け付けていません。