見納めの覚書
先日、「レオナルド・ダ・ヴィンチ ― 天才の実像展」の日本側の監修者でいらっしゃる池上英洋先生を招いての「受胎告知」鑑賞の集いに参加させていただいた。
幸運にもマイミクさんに声を掛けていただいて、とても有意義な時間を過ごすことが出来た。
もう展覧会は終わってしまったが、一生記憶に残る展覧会になるだろう。
初めに会場の外で池上先生のレクチャーを受けた。
強風の中、図版を指し示しながら「受胎告知」のポイントになるところを解説、全体的に和やかな雰囲気で、初参加の私もリラックスして聴くことができた。
印象に残ったところをピックアップしてみると、
・ この「受胎告知」の帰属に言及して、ギルランダイオの名前が挙がったが、彼のような多作作家は作者不詳の作品の作者とされやすいとのこと。
なるほど、そういうものかと納得。
・ レオナルドの描いた「受胎告知」の特徴は、卓越した技術と、従来の「受胎告知」からは逸脱していたり、奇妙な点があること。
その一つとして、「閉ざされた庭」としての花園の部分が広いことに注目。この特徴がレオナルドの植物の博物学的な観察にもつながっていくことに。
「閉ざされた庭」というのは旧約聖書の「雅歌」から生まれた図像で、マリアの処女性や子宮といったものを象徴しているとのこと。
「閉ざされた庭」15世紀初頭
描かれた植物にはとても興味があった。ガブリエルの持つ象徴的な白ユリ(マドンナ・リリー)や花園のアネモネ、チューリップなどは割と容易に見つけられるが、その他は原画を見てもはっきりとは区別がつかなかった。
ガブリエルの持つマドンナ・リリーと裾近くのアネモネ
野生種?のチューリップなど多数。
トスカーナの植物と聖書にのっている植物が描かれているのだろうか?
青い花は矢車草?オダマキ?スミレ?
書見台の下の葉はルピナスのようだけど、あれはナンだろう?
聖書にのっているアイリス、アマ、ベツレヘムの星などは描かれているのだろうか?
・ マリアの後ろにある壁面の「奇妙さ」に関する見解。
キリストが生まれる以前のユダヤ教のシナゴーグを、わざと「不完全なもの」として表現したということ。
灰色のブロックの積み重ね方は、正方形の大小を積み上げただけの不自然なもので、建築学的におかしなものだそうだ。
・ マリアの右腕のアナモルフォーズの問題について。
これは先の日記にもかいたとおり。http://d.hatena.ne.jp/kyou2/20070610/p1
・ 旧約聖書の中に書かれていることを、新約聖書の雛形として予型を見出すといった予型論について。旧約と新約のモチーフの同一性について。
1時間弱のレクチャーだったが、もっとずっと聴いていたい内容だった。
描かれている植物について、色々疑問点も出てきたので、本を探してし調べてみようかと思っている。
「予型論」はとても興味深い。こちらも探して読んでみよう。
当日、予想を上回っていたのが、来館者の多さ。
レクチャーの後に作品鑑賞をすることになっていたのだが、最終週の金曜ということもあってか、凄まじい人出。
作品鑑賞もまま成らぬ状態で、残念といえば残念だったが、誰でも見たい気持ちは同じ。
平和的に見なければ、人生の一大事を静かに受け止めているマリア様に申し訳ない‥‥
レクチャーにあったポイントを確認しつつ「受胎告知」をどうにか鑑賞。
前回同様、対面してまず胸を打たれるのが、画面から発せられる人間の英知の輝きだ。
レオナルドによって描きこまれた思索や技術、興味や感動が輝いている。
ルネサンスに放たれたその光が、時代を貫き今も輝いていることに、心から感動した。
別会場ではレオナルドの多彩な側面の展示があった。
今回は見られなかったが、前回は時間をかけて回ることが出来た。
「「受胎告知」はあらゆる思索の起点」とカタログにあったが、こちらの展示はそれらを専門的に分化し、発展させた結果といえるだろう。
手稿を基にした立体展示や実験装置、また映像による絵画の解説など、現代の技術を駆使してレオナルドの世界に迫るものだった。
この多角的なレオナルドに呼応する本として下記の本を読んでみた。
“見納めの覚書” に対して2件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。
レクチャーを受けたあとにもう一度絵を見る、ということはとても深まりますね。見るというのはいろいろなレベルがあるのだと、kyouさんの日記を読むといつも感じます。有名だからという理由でただ漫然と見る人のほうが多いのかもしれません。でも、絵を見るのって、きっと何かと向き合うことなんですね。そこから何かを汲み取れたらいいのですね。
素晴らしい記事へTBをしていただいて、
大変有難うございました。
こちらは、TBが飛ばなくて申し訳ないです<m(__)m>
また、ぜひ、機会を見てコミュニティの鑑賞会へも
いらしてくださいね~☆お待ちしております<m(__)m>