京都にて‥その2

「若冲展」を見終わってから、岩倉にある実相院へ行く予定にしていた。

まず叡山電鉄の出町柳駅へ。
近いはずなのに意外と手間取ったが、小ぢんまりと良い感じの駅に思わずパチリ。

   

岩倉駅で下車、バスで実相院前へ。
ガイドブックによると実相院は、春は新緑、秋は紅葉が磨き上げられた床に映りこむ「床緑」「床紅葉」が、大変美しいのだそうだ。
外観はどっしりと落ち着いた雰囲気で建物の中へ入ると、私一人でとても静か。
奥に進むと‥‥おおっこれかと、黒光りする床に映る新緑に視線が釘付けに。
何と言ったらいいのだろう、一間が暗い湖のようでもあり、油を満たした大甕のようでもあった。
緑が床に溶け出したように広がっている。沈み込みそうな深さがあるように思えた。

室内からの写真は取れないのでHPで

http://www.jissoin.com/

縁側へ廻ると庭の緑が燃え立つようだ。緑の幅がとても豊か。
雨の音とかえるの鳴き声が、あちらこちらで聞こえるばかり。

襖絵の一つに珍しい図柄を見つけた。
中国の子供たちが大きな割れ瓶を中心に川遊びに興じている図で、大きな割れ穴の中にも子供が入って遊んでいる。
ササッと鉛筆でスケッチ。
ちょっと変だけど、こんな感じ‥

もう一つ面白かったのは貴族の厠。
8畳くらいの広さの真ん中に四角く区切られたところがあって、どうもそこで用を足すらしい。後は使用人に処理してもらうのだろう。
そういえば、古典をもとにした谷崎潤一郎の小説で、ある男が恋する女房を諦めるのに、その人の「糞」でも見れば恋心もさめるだろうと、お付きの人にそれをよこせと迫る。
けれど、相手の女房はそれを察していて、練ったお香かなんかを糞に見立てておいてそれを渡した‥とか言うのがあった。全く、おちおち用も足せない。

帰りのバスの時間が合わなくて、思いのほかゆっくり過ごすことになったが、自分一人だと本当に気楽。
何だかんだで、昼ごはんも食べずに夕方になってしまっていた。
でもどうしても、今日は「アスタルテ書房」に行かなければ!
澁澤龍彦が好んだ古本屋さんで、澁澤のほか幻想文学を中心とした作品を多く扱っているという有名なお店。
夫にkyouは意外とミーハーだと言われようが、一度は行ってみたい古本屋さんなわけで‥。

ところが、詳細な地図があるにも拘らず、分からない。既に通っているはずなのに、見当たらない。
しばし彷徨ったあげく‥‥‥あった。嘘でしょ、これじゃ~分からない。ごく普通のマンションの一室。
けれど雨の中探しただけのことはあった。いかにも澁澤風な店内は、もはや書斎といった感じ。
書棚に囲まれて至福の時間を過ごした。
購入したのは、小村雪岱の画集、高野聖・歌行燈のグラフィック版、それと箱絵も時代を感じさせる


『洞窟の女王』 H・R・八ガード/著 大久保康雄/訳 世界大ロマン全集5 (東京創元社)

これは忘れもしない、小学校6年生の時に読んだ冒険譚。
不思議な運命のもとにうまれた英国人青年と養父が、アフリカの奥地に2000年も生きながらえているという女王を探しに行く、というストーリー。
火柱の中に永遠の命を持つ女王が立っているイメージが、子供心にも神秘的で、小学校の窓の外を見ながら“この空の続きにそんな不思議なことがあるのかなぁ”と空想したものだ。
神様のお引き合わせに感謝。

その後「平安堂書店」で、行けなかった展覧会「曾我蕭白 無頼という愉悦」のカタログを購入。
厚さ3センチの重量級が加わった。
よろよろと歩きながら、もはや空腹も峠を超え、目指すはマイミクさんに教わった素敵な喫茶店「ソワレ」
少し暗い店内は、柔らかく青い光がレトロな装飾を浮かび上がらせて、落ち着いた雰囲気。
二階に上がり、窓際に座り熱い珈琲を一杯。ふうっ~。

素敵な店内はこちらで http://www.soiree-kyoto.com/ 

翌日、伏見稲荷経由で、若冲が晩年をすごした石峰寺(せきほうじ)へ。
この寺は若冲が下絵を描き石工に彫らせた五百羅漢像で知られている。
写真でしか見たことがなかったシンプルな石仏達を、この機会に是非一度見て見ることに。
若冲好きの澁澤も何度も訪れたそうだ。

澁澤龍彦の古寺巡礼 (コロナ・ブックス)
『澁澤龍彦の古寺巡礼』 澁澤龍彦・澁澤龍子 (平凡社)

異国風の門をくぐり中へ入った。
竹林の間、そこかしこに石仏が出迎えてくれる。

私の一番のお気に入り。三つ子地蔵(かってに命名)や六つ子地蔵もいて、まるで竹の子のように生えているのもカワイイ。

それと、気づいたのは伏見人形図とよく似ているという点。下記のコレクション・ブログにも若冲が伏見人形のデザインをしていたとある。
素朴な味わいの伏見人形と、この石仏たちの形も共通点があるのかもしれない‥
「伏見人形図」が見られる

http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/20060524/p1

後になって知ったのだが、4月にこの「賽の河原」の多くの石仏がなぎ倒されたり、壊されたりした被害があったそうだ。
何故そんなことをするのか、とても理解できない。どんな人間でも救ってくれるのがこの仏様ではないか、と残念に思った。

寺の中に若冲のお墓があって、筆が置かれていた。

敬意と憧れと感謝を込めて、合掌。

この後、嵐山方面へ行き、京都駅に戻りがてら「三月書房」で数冊買って、新幹線で横浜へ戻った。
新幹線は速くて、心がついていけない。

京都にて‥その2” に対して14件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >TOMATOさん
    美味しいものはそれほど食べられなかったです。なんだか時間がなくなってしまって。それだけが心残り。
    石峰寺は広くは無いのですが、これがあの極彩色の「動植綵絵」を描いた若冲か?と思わせるほど、趣の違いがあります。
    肩の力を抜いてぶらぶらする近所のお寺って感じです。

  2. kyou2 より:

    >弥勒さん
    「廃寺」「国宝級寺院」とは、栄枯盛衰の実地体験ですね。廃寺って怖そうですけど‥。
    箱根「長安寺」知りませんでした。こちらの羅漢さんは随分リアルな感じです。
    HPの五百羅漢寺も面白いですね。落語もなかなかいいです。
    最後思わず、うまい!ってニンマリしましたよ。
    「曼殊院門跡」ここも行こうか迷ったところです。そうですか、今度是非行ってみたいです。
    「実相院」は建物も小さくて、床に映るところは意外と狭いのですが、秋は一見の価値があるかと思いました。

  3. kyou2 より:

    >ワインさん
    お互いに「らしい」所へ行ったようですね(笑 
    石峰寺、静かでしたよ。一人しかいませんでしたし。
    実は京都より仏像の多い奈良派なんですが、今回でやっぱり京都もいいなぁと思っています。
    今度は私も夫と一緒に行きたいかな、なんてね。

  4. TOMATO より:

    こんばんは。
    旅……。読んでいたらわたしもひさかたぶりに行きたくなりました。おいしいものは召し上がりましたか。
    好きな所を好きなだけ、がひとり旅の醍醐味ですよね。
    三つ子地蔵や斜面に立ち並ぶ石仏は見ごたえありそうですね。

    まずは来週あたり、近いところで、できたばかりの横須賀美術館へ行ってみるつもりです。週刊新潮の表紙を書かれていた谷内六郎さんの常設展が楽しみです。

  5. 弥勒 より:

    48歳の時京都で暮らしたくて京都が本社の会社に転社しました。そして歩いたところは関西の「廃寺」(これが好きなのです)と「国宝級寺院」でした。そのためかどうか、実相院、石峰寺は知りませんでした。
    少し前、箱根「長安寺」(曹洞宗)で「林の中の五百羅漢」を初めて知ったのですが、これは石峰寺が本家本元だったのかもしれませんね。
     http://mixi.jp/view_diary.pl?id=289588741&owner_id=112169
    それまではお坊さんの格好をした石像または木像の五百羅漢しか知りませんでした。
     http://kkubota.cool.ne.jp/rakanji.html
    両寺院とも行ってみたいですね。

    京都、横浜、思い出を含めて大好きな街です。
    最も好きなところは京都では「曼殊院門跡」、横浜では「三溪園」です。

  6. ワイン より:

    実相院、石峰寺、どちらもとても風情のある写真ですね。kyouさんがえらびそうなお寺だなと思いました。
    石峰寺、奈良のような雰囲気ですね。しーんと静かでした?京都も1日だけでは遠くまで足をのばすことができませんでしたが、泊まりで旅行したら、私も行って見たいと思いました。

  7. kyou2 より:

    >にしおかさん
    >男の踏ん切りの悪さが身につまされるようでありました。
    「好色」は読んだことがありませんが、面白そうですね。青空文庫で読めるかしらね。
    そうですね、本気で好きだったら簡単にはあきらめられないかもしれませんね。
    あ~哀しいかな、恋愛から遠のいるので、どうしようもない切ない思いを忘れているわ~。

    「若冲と江戸絵画」展 とっても素晴らしいですよ。今愛知なんですね。
    若冲の水墨画、特に好きです。他の画家の作品も見ごたえ充分。結構時間がかかりましたよ。

    http://d.hatena.ne.jp/kyou2/20060721  
    ここに感想書きました。

  8. kyou2 より:

    >後藤 純一さん
    私もガイドブックを見て知ったのですが、いつか秋にも行きたいと思いました。
    私が行ったときは雨でしたから、映りはイマイチだったのかもしれません。
    護摩木に願いを書くところもあって、家内安全、学業成就とか
    色々なことが書いてあるものが沢山積まれていました。
    私は、なんだか何を書くかスゴ~ク悩んでしまって、
    結局「娘の幸福」なんてお馬鹿な文句を書いてしまいましたよ(笑

  9. にしおか より:

    僭越ながら、芥川龍之介の「好色」かと思いますが、アレは、「そこまで惚れてる女の人なんだから、たとえ本物の便を見たとしても諦めきれないよなぁ、この男」という、心の底を見透かされた程度では、心底好きになった女性の事は、何時まで経ってもグジグジと、忘れられないでいるもんだという、男の踏ん切りの悪さが身につまされるようでありました。
    京都良いですね!武家屋敷では防臭効果があるとかで、杉の葉が敷き詰めてあったそうです。便の話に終始してしまいました。すいません。明日が最終日なんで、自分も愛知県美術館の「若冲と江戸絵画」展、行ってみます。

  10. 後藤 純一 より:

    Kyouさん、こんにちは。

    このコース、一度歩いてみたいですね。
    特に実相院に行ってみたいと思いました。

    >奥に進むと‥‥おおっこれかと、黒光りする床に映る新緑に
    >視線が釘付けに。
    >何と言ったらいいのだろう、一間が暗い湖のようでもあり、
    >油を満たした大甕のようでもあった。
    >緑が床に溶け出したように広がっている。沈み込みそうな
    >深さがあるように思えた。

    この文章に惹かれました。

    京都の古書店をいろいろ訪ねられた様子。
    わたしの日記とおもわぬところで(かすかに)
    クロスしていたのですね。

  11. kyou2 より:

    >みちこさん
    「ソワレ」は素敵でしたよ。願わくば憧れの人と行けると最高ですけれどね。
    あの話は宇治拾遺物語にあるもので、それを谷崎は「少将滋幹の母」芥川は「好色」で取り入れています。
    私は「少将~」で知りましたが、有名な話のようですね。

    >女の心の浅ましさにすっかり憑き物が取れるように未練が落ちて、
    なるほど、そう来ましたか(笑 
    浅ましさではなく、秘すれば花ってことになったのでしょうね。
    私が男だったら己の浅はかさと相手の見事さに、落差を感じてあきらめると思いますよ。

  12. kyou2 より:

    >monksiiruさん
    沢山旅をされている方を前に、なんだか恥ずかしいですよ。
    私は滅多に遠いところなんて行かないものですから。
    アスタルテは面白い場所でしたよ。本当はもっと沢山古本屋さんを廻りたかったのですが、流石京都、見たいとこ満載で‥‥。
    小さな子供のような仏様を壊すなんて、信じられませんでした。

  13. みちこ より:

    わずか数日でこれほど充実した内容とは、旅上手ですね。
    素敵な本たちを抱えて古喫茶店で珈琲を一服されたとき、さぞや良い気持ちだったでしょう?
    貴族の厠、掃除しやすそうでいいですね。マンションだと、いつも、タンクの裏側の掃除で頭にくるんですよね。あまりに狭くて。
    子ども心に記憶に残るあの小説は谷崎でしたか。平安貴族の姫気味に憧れた男が糞の箱を奪う小説。でも、わたしの記憶に残っているのは、結末が不満だったからです。小説の主人公は、香木で作られた糞のせいで未練を断ち切れずに地団太するんですが、私だったら、そこまで己の面目にこだわる女の心の浅ましさにすっかり憑き物が取れるように未練が落ちて、はははっと笑っておしまいになるだろうな、と感じたからです。
    ひねくれているせいか、芥川の小説なんかでも、大抵は、分析が浅いな、と、子どものときに不満ばかり感じていたのを思い出しました。
    羅漢さんの写真もいいですね。若冲のお墓参りも出来て、ほんと、良い旅でしたね。

  14. monksiiru より:

    kyou2さん、こんにちは。
    素晴らしい京都探訪楽しく拝見させていただきました。
    若冲の展覧会から始まり若冲の羅漢で終わるという趣向、最高だったと思います。羅漢さんの野におかれた自然の姿がなんともいえない風情がありますよね。これを破壊する人間は許せません。
    合間にはアスタルテ書房にも立ち寄られたそうで羨ましい限りです。若冲と澁澤が重なり合った最高のひと時だったと思います。
    私もいつか探訪をしてみたいと思いました。

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