絵巻の原形に迫る

吉備大臣入唐絵巻の謎

『吉備大臣入唐絵巻の謎』 黒田日出男 (小学館)

数奇な運命をたどり、今はボストン美術館蔵となっている「吉備大臣入唐絵巻」
『謎解き 伴大納言絵巻』と同様に、絵画史料論の手法を武器に、このユニークな絵巻を読解してゆく。

「吉備大臣入唐絵巻」に描かれた物語は、平安時代の説話物語の一つで平安末期にすでによく知られているものだったという。
その内容はというと、主人公の吉備真備は遣唐使として唐に赴く。しかしすぐれた才能ゆえに高楼に幽閉され、同じく幽閉されて餓死し「鬼」となった阿倍仲麻呂に助けられながら、数々の試練をくぐりぬけ「文選」「囲碁」「野馬台詩」というお宝を獲得し帰還するといった話。異郷訪問譚であり、冒険譚でもある。

著者は、過去の研究を尊重しつつ次々と疑問をなげかけ、今まで解明されなかった絵の内容を確定してゆく。

 


吉備大臣入唐絵巻部分

上は、夜の宮殿で何やら秘密裏に行なわれている様子の絵だが、今までは誰が何をしているのかハッキリしなかった場面だ。
著者は過去の状況説明的解釈から一歩進み、人物一人一人の着衣、しぐさ、持ち物、お互いの位置関係を明確にしていく。
そして画家が何を描き、何を伝えたかったのか、この場面の決定的な意味を教示してくれる。
「謎解きはディテールから」という著者の基本スタイルを証明するものだ。

全編に渡り先入観にとらわれることなく、画家の描いた「もの・こと」の意味を探る。
そして、誰も想像しなかった「吉備大臣入唐絵巻」本来の姿、原形の復元を試みている。
この人の手にかかると絵巻が新たに息を吹き返し、紙の中の人々が生き生きと見えてくるから素晴らしい。
これからもせっせと読み続けていきたいものだ。

こんな浮世絵もあって、江戸時代もなかなかの人気だったのかな。


「吉備大臣・呉大尉玄東対局図」国貞   左から玄東の妻、阿倍仲麻呂の霊、玄東、吉備大臣。

 

PS:明日から恒例の夏のキャンプに行ってきます・・・。

絵巻の原形に迫る” に対して1件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >ワインさん
    そうです。フィクションですね。
    吉備大臣は帰国できたけれど、阿倍仲麻呂は何回か帰国しようとしたけれど、どうしても船が難破して帰国できなかったようですね。
    他国を恐れる気持ちが、他国人=鬼であったり、どうしても帰れなかった無念=鬼になったりしたのだと思います。

    それにしてもこの話は、囲碁対決で負けそうになると吉備大臣が相手の碁石を飲み込んじゃったり、それを出そうとした唐人に強力な下剤を飲まされても頑張って出さなかったとか・・・
    なんか妙な展開もあり不思議な話です。
    下剤を飲まされ、下着姿で立つ吉備大臣の姿は、とっても情けない感じで笑えます。

    日本にはゴク稀にしか公開されなかったようで、機会があったら是非見てみたい絵巻です。

  2. ワイン より:

    実際は吉備真備も阿倍仲麻呂も、どちらも捕らえられて死んだということではないようですね。この絵巻は、彼らを題材にしたフィクションということなのでしょうね?

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