絵師の見た日常
『シーボルトの眼-出島絵師 川原慶賀』 ねじめ正一 (集英社)
実在した絵師 川原慶賀を主人公に、異国情緒溢れる長崎・出島の風情と人情を描く。
彼をお抱え絵師とした、医師であり植物学者であるシーボルト、その妻おたき、江戸で出会った北斎と娘阿栄など、彼に関わってくる人物は個性的だ。
慶賀が垣間見るオランダ人の情事、おたきに寄せるほのかな想い、オランダ商館長やシーボルトに随行して江戸参府する折りの旅情、北斎の娘阿栄との恋などが、生き生きとした風俗画、叙情的な風景画として目の前に浮かんでくるようだ。
北斎と慶賀との出会いは印象深かった。出来ればもっと二人の画業の相違点、慶賀の画論など読みたかった気がする。
シーボルトは彼に西洋の植物画の技法を教えた。慶賀はそれを淡々と吸収して美しい植物画を残した。
流動的な時代の中、名のある人もない人も、誰もが同様に淡々と、だが精一杯に人生を生きていて、清々しさを覚えた。
“絵師の見た日常” に対して1件のコメントがあります。
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この小説、とてもおもしろかったでしょ?
読み物として、人物が生き生きしていたし、当時の出島の様子や時代の雰囲気が映像でみているように伝わってくる感じがしました。
絵師の誇りというものを慶賀はもっていたよね。
だからこそ、シーボルト事件に巻き込まれ、捕らえられることがわかっていたにもかかわらず、出島から逃げ出さなかったわけだし、絵師の仕事を失っても、自分の描きたい絵を描き続け、亜栄のような女と一緒で幸福な生涯だったのではないか、と思いました。
死ぬまで根っからの画家だったのだと思います。
慶賀の植物画は、まったく舌をまくほどの技量です。息をのむとは、このことかと思ったほど。また展覧会をやらないかな・・