ピエロと駝鳥の卵
岩波 世界の美術『ピエロ・デッラ・フランチェスカ』マリリン・アロンバーグ・レーヴィン著/諸川春樹訳(岩波書店)
このシリーズ全般に言えることかもしれないが、オールカラーの図版が質、量とも大変充実して、それだけでも見応えがある。
作品解説は年代順になされ、個々の作品に対しての詳細な解説は、より深い理解と感動を与えてくれる。
また、訳者によると本書の特徴は「近年発見された資料にもとずくピエロのまとまった評伝」とされ、謎が多いとされるピエロの実体に迫っている。
印象に残った箇所は、「モンテフェルトロ祭壇画」について
http://www.ibiblio.org/wm/paint/auth/piero/montefeltro.jpg
(是非拡大してご覧になってください。)
聖母マリアの頭上の白い卵が目をひく、とても神秘的な感じのする絵だ。
この絵は、聖母マリアとキリストを正面から見て描いたものだが、本書の中にそれを真横から見た図に再構成したものが載っていた。
ピエロの絵は正確な遠近法に基づいているので、わずかな柱や壁の角度からも再構成図が可能だという。
真横から見た図を見て、驚いた。マリアの頭上のぶら下がっているとばかり思っていた卵が、実はずっと後方にあったのだ。
よく絵を見れば、長い格間天井の後ろに貝殻がありそこから卵がつり下げられているのが、分かるのだが・・絶妙なトリック。
正確な遠近法と、遠近法を無視した巨大なマリア(マリア・エクレシア)の合体が生み出す不思議な空間だ。
また、この卵は駝鳥の卵だと書かれている。もともと卵は、新生、不死、豊穣、復活などの意味があり、ことに駝鳥の卵は貴重であったことから礼拝堂などに吊されていたそうだ。
このピエロの絵にしても、遙か後ろにあるわけだから、鶏の卵ではこの大きさにはならないだろう。
事典で駝鳥の卵を調べてみたら・・処女懐胎の象徴とある。動物寓話集によると駝鳥は産卵して砂をかけると放置して、自然に孵化するに任せるとあり、そこからの派生だろう。
ピエロの表現は非常にストレートであった訳だ。聖母マリアの顔と卵が、形とその意味するものとが、見事に重なり合ってシンプルで美しい世界を構築しているのだ。
まだまだ他にも面白い箇所が沢山あった。もう一度ゆっくり読み直して、ピエロの良さを味わおう。そしていつか本物のピエロの絵を見てみたいものだと思う・・。
“ピエロと駝鳥の卵” に対して1件のコメントがあります。
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聖母マリアが手にすると、ちょうど鶏の卵のような大きさに
見えるので、ハッとしますね。
その辺も計算済みなのでしょうか。
建物の壁や天井、貝殻には、明瞭な陰影が描きこまれていますが、
人物には光も影もボンヤリとしか描かれていないです。
プレーンな感じがします。
ボクたちがなじんでいる絵画とは、少しちがう雰囲気を感じます。
これもなにか意図があってしているのでしょうか。
なぞの多い絵ですね。