石に非ずにあらず

心は転がる石のように―Papers 2003‐2004

『心は転がる石のように』 四方田犬彦 (ランダムハウス講談社)

2003~04年にかけて著者が見聞きしたこと、訪れた国々についてのエッセイ集。

四方田氏の関心は、タイトルのごとくあっちへ転がり、こっちへ転がりだ。

SARS、スーパーフリー、アザラシのたまちゃん、パナウェーブ研究所など、ある時期TVに頻繁に露出していた事件なり事象などにも触れ、独自の視点と感性で淡々と語る。

そして駆り立てられるように、頻繁に海外に飛ぶ。それは日本という国や世間から逃避するかのごとくだ。

韓国、香港、ウィーン、イスラエル、パリ・・

特にイスラエルについては、テロの横行する最中長期滞在し、若者、徴兵制、ユダヤ教とキリスト教、習慣化された危険について次々と報告する。

いづれも普段ニュースで流されることは一味違った、著者のしなやかな目線によるイスラエルを感じることが出来た。

「イスラム・ヨーロッパの誕生」は、少なからずショックを受けた。

ユーゴスラビア崩壊後、ヨーロッパの3分の1が本来的にイスラム地域であることが改めて認識されたという。

パリ、ベルリン、アムステルダム、ロンドンの主要都市でイスラム教徒が爆発的に増え、今世紀中には、ヨーロッパは「イスラム・ヨーロッパ」と呼ばれるようになり、それは長い目で見れば文明の衰退著しいヨーロッパに新しい活力を与えるだろう。と著者は述べている。

イラン・イラク戦争においても、フランスやドイツがアメリカとは一線を画すのは、内包するイスラム教徒への傷であるという。それはもはやヨーロッパの傷で有り得るからだ・・。

「アメリカ政府に決定的に欠落しているのは、こうした大きな歴史を見通す力なのである。」と言う言葉は印象的だった。

四方田氏の文章を初めて読んだのは、澁澤龍彦がらみのエッセイであったように思う。

リブレスクな澁澤氏は、空想の地図で世界を遊覧する。正反対に四方田氏は自らの足で泥濘に立ち、飛行機に乗り、世界を駆け巡る。

本書を読み終わって、正反対のようで実に似ているように思った。共通するのは自分の感性を信じる力、独自の理論を組み立てる明晰さにあるように思うのだ・・。