短編ミステリーの楽しみ

終日犯罪―ミステリー傑作選44 (講談社文庫)

『終日犯罪 ミステリー傑作選44』 日本推理作家協会編 (講談社文庫)

収録作品・・『時雨鬼』宮部みゆき、『百魔術』泡坂妻夫、『上陸』五條瑛、『邪宗仏』北森鴻、『バベル島』若竹七海、『奈落闇恋乃道行』翔田寛、『事故係生稲昇太の多感』首藤瓜於、『サージャリ・マシン』草上仁、『死神』馳星周 

『推理小説年鑑二〇〇一年版』に収録された二十編の中から抜粋されたもの。

この「年鑑への道」は相当に厳しく、選考は新人、大家、受賞歴などの条件をいっさい斟酌せずおこなわれる、と解説にあった。

初めて読む作家で、面白かったのが五條瑛。プロフィールをみると、防衛庁で極東の軍事情報や国内の情報分析を担当。退職後フリーライターとあり、『上陸』もそのあたりの知識の裏付けが効いていてリアリティがあった。

主人公は、バブル崩壊後バッサリ切り捨てられたゼネコンの下請け会社に勤めていた男。

今は日雇い労働者としての毎日だ。そんなある日、日本へ渡るパキスタン人の「密航」計画を立てることになる・・・

首藤瓜於は長編『脳男』では実にドライで、奇抜さでピカイチだったが、この短編は打って変わって、人物描写が上手い刑事物だ。

爽やかな読後感がいい。シリーズ化されているのかな・・?

『奈落闇恋乃道行』は、騙し騙され、分かっていながら、知らぬ振り。それも愛する人のため。男も女も一途に思う恋の道行なのだ。なんて、思わずそんなセリフが出ちゃうような・・。

江戸の、「森田座」名脇役の板東彦助は舞台で、とんでもないトチリをしでかす。正にあってはならない大失敗。それが引き金となって彦助は首を吊ってしまう。

しかし、嘲笑の渦の中に死んでいった彦助には、ある真実が隠されていた・・。

恋にも、義理にも一本筋を通す、そんな心意気が伝わってくる短編だった。

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