「ミュシャ展」
六本木の国立新美術館で開催中の「ミュシャ展」を見てきました。
ミュシャというとサラ・ベルナールのポスターで一躍時代の寵児となったアールヌーボーを代表する芸術家ですが、今回はその認識とは一線を画した祖国愛に燃える骨太な作品《スラヴ叙事詩》が初公開ということで楽しみにしていました。
一部撮影可能エリアがあります。平日でこの混み様、作品が大きいのが救いでした。
《スラヴ叙事詩》はミュシャがパリで商業的に大成功を収め名声を得た後、その地を離れ汎スラブ主義を称揚する作品としてチェコとスラヴ民族の神話から近代にわたる歴史からモチーフを得て描かれたもので、縦6メートル横8メートルという圧倒的な大きさを誇る20作品もの連作です。
一番心に残ったのは、やはり看板やチラシにもなっている《原故郷のスラヴ民族》でした。巨大なキャンバスに他民族の襲撃の場面とその恐怖におののきながら身を隠すスラヴ民族、さらに星空を背景に擬人像に支えられたスラヴ司祭が浮かんでいる様子が描かれています。其々はリアルに描かれているのですが、一つの画面にそれらが一体となって不思議な空間を生み出していて、何とも言えない摩訶不思議な世界が作られていました。
画面下の草むらから真正面にこちらを見据えている人物は不安と緊張感で張り裂けそうで、それはこれから始まるスラヴ民族の苦難を予感させつつ壮大な叙事詩へと見る者を惹きつけているようでした。
《スラヴ式典礼の導入》は暗く描かれた部分と明るく描かれた部分のコントラストが面白く、こちらも一つの画面に色々な事柄や象徴が描かれています。手前に暗く描かれた若者の持つ輪は民族の統一を象徴するのだそうです。
また全作品がエッグテンペラと油彩で描かれて油彩特有のギラギラした感じはなくやや艶消しな感じでした。そのせいか戦闘シーンもあるのですが全体として静かで穏やかな印象でした。
アールヌーボー時代のミュシャからはかけ離れているようにも見えますが、画面構成や平面を意識した感じにそれを彷彿させるものがあり、それが写実的な表現と上手くハーモニーしているところが《スラヴ叙事詩》の魅力かと思いました。特に《ニコラ・シュビッチ・ズリンスキーによるシゲットの対トルコ防衛》という火災のシーンを描いたものでは中央付近に描かれた黒煙?の有機的な曲線が如何にもアールヌーボーという感じがしました。
《スラヴ民族の讃歌》
今まで好んでミュシャの展覧会を見に行ったことはありませんでしたが、これだけの大作を描く画家の熱狂というか、志を直に感じてみたかったという思いがありました。たまたま見たテレビで彼はナチスに愛国心を煽るものとみなされ投獄、釈放されたがその4か月後に亡くなったと知りました。《スラヴ叙事詩》も刻々と変わる政治情勢の中不遇な時代もあったようですが、今、こうして遥か彼方の日本にやってくるとは想像だに出来ないことだったのかもしれません。
“「ミュシャ展」” に対して4件のコメントがあります。
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>きよぴーさん
そうですね、平日見に行きましたが結構混んでました。でも、大きいので人もちょっと距離をおいてみたりバラケるので、全然余裕がないわけでもなかったです。会場より物販のレジが超混んでいました~。
あと、私は作品が遠そうなときは単眼鏡を持っていくのですが今回はとても便利でしたよ。周りの方も持っている方結構いらっしゃいました。
アールヌーボーのミュシャとそれ以降のミュシャ、でもパリでの成功が無ければ《スラヴ叙事詩》は無かったのかもしれないと感じました。
>ワインさん
私も普通のミュシャ展だったら見に行かなかったと思います。
まあ、兎に角大きくてこれだけの作品を仕上げるエネルギーというか、汎スラヴ信奉が凄いなと思いました。
次世代に向けてのメッセージもあったようですが、時代遅れ感もあったみたいですね。
連作の中でも画面構成が斬新なものが面白かったです。史実をただ写実的に描いた感じのものはやはりイマイチな平凡な感じで。
でも、ミュシャの色々な面を知ることが出来てとても興味深い展覧会でした。
ミュシャ展、見に行こうと思っている展覧会の一つです。
始まったばかりなのに、けっこう混雑しているのですね。
ミュシャと云えば、サラ・ベルナールのポスター。これしか思い浮かびません。
優美なポスターを描いたミシャが、
祖国の歴史と向かい合い、
祖国に対する思い描いた《スラヴ叙事詩》
私が持っているミュシャのイメージがきっと変わるだろなと思っているところです。
ミュシャというと、私もなんとなくアールヌーヴォの時代に印刷されたポスターなどで人気を博した画家というイメージが強く、たいして関心を払っていなかったのですが、今回の展覧会はまったく違った側面に気づかされるものですね。私のマイミクさんでもこの展覧会に行かれて大変感銘をうけたと日記に書いていらっしゃるかたがいました。ミュシャの商業的な一面でなく本質的な面を紹介する展覧会なのですね。こんな大作が日本に来るって、すばらしいことだと思います。