『植物からの警告』
- 作者: 湯浅浩史
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/07/01
- メディア: 新書
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本書は世界中の植物の定点観測をしている筆者による植物変動の現状と問題点の報告です。
昨今、地球の温暖化が危惧されていますが植物にとっては1,2度の温度変化はさほど問題がないとのこと、それよりむしろ深刻なのは雨の振り方で、何百年も生きてきた植物が枯れるほどの干ばつや、逆に洪水になるほどの大雨になるなど、その偏りの激しさに絶滅の危機にある植物が少なくないというのです。
加えて、気候変動の激化とは別に人間の文明社会が植物に及ぼす影響も多大なものがあり、植物とどう関わっていくべきか問うています。
また驚いたのは、植物も人間と同じく高齢化の危機に瀕している種が少なくないということでした。
例えばマダガスカルの巨木バオバブは、老木はあるものの干ばつと人口増加による野焼きが原因で周りに若い木が殆どないという状況だそうです。
バオバブ
親世代は水源近くまで伸びた根やとても厚い樹皮で干ばつや野焼きの熱をやりすごせますが、子供世代はどちらも困難になります。いくら親世代が頑張って種子を作っても、子世代が育つ環境がないのです。
もうひとつ興味深かったのは、自然の花畑に人為的に水をやってキレイに咲かせることの危険性を指摘したところです。
草花や野生の種子は同一種で「あわてもののタネ」「ゆっくりもののタネ」「ちょっとひねくれもののタネ」というように異なった性質のタネがあるそうです。
「あわてもの」は雨が降るとすぐ芽を出します。上手くいけばいいのですが、その後雨が降らないと枯れやすいそうです。「あわてもの」がしくじった後は「ゆっくりもの」で、十分に雨が降った後ゆっくり発芽して成長しタネを残します。
ところがこういう「あわてもの」や「ゆっくりもの」が育つような環境にない時、何年も雨が振りにくい状態が続いた時に、「ちょっとひねくれもの」の出番だというのです。少々の雨でも発芽せずじっと我慢し生き延びて、干ばつの後たっぷり雨が降ると発芽するのだそうです。
筆者は、こういうタネがあるから自然の花畑は干ばつが続いてもなんとなく存続していくけれど、人為的に常に水をまいていると全てのタネが発芽してしまって本当に水やりにさえ困るような水不足になった時に持ち堪えられず、タネが絶えてしまいその植物が消滅に瀕することになりはしないか、と心配していました。
これはある観光地でのことですが、植物との共存共栄は人間の知識や配慮が欠かせないと思わざるを得ませんでした。
その他には、竹を利用しなくなった生活スタイルがモウソウチクを爆発的に増加させ環境破壊をもたらしていることや、秘境のギアナ高地にヘリコプターで人が入れるようになったことで不注意からタネが持ち込まれ固有種が豊富な環境に外来植物がはびこり出したことなど、本書には緊急に対処しなければならないようなことも多く、現状の厳しさが伝わってきました。
“ 『植物からの警告』 ” に対して4件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。
>ワインさん
>外来種がどんどん国内に入ってきていて、私が子供時代には見たことなかった植物がずいぶん増えています。
そうですね。園芸でよく見かけるランタナも野山に逃げてはびこると刺が凄いことになり、外国では駆除に苦労しているところも多いそうです。
>変わった植物や美しく珍しい植物を求める人の心というものが環境を変えてしまう危険性をはらんでいることもわかります。
人間が関わることで自然を変えすぎてはいけないと思います。それも自然淘汰と考えるとすると、人ってとても破壊的だなと思います。
外来種がどんどん国内に入ってきていて、私が子供時代には見たことなかった植物がずいぶん増えています。人の動き、流通が昔とは比べ物にならないくらい早く活発になり、そして広範囲になったせいですね。加えて人間がわざわざ自分のためによそからそれを持ってくるという行為。変わった植物や美しく珍しい植物を求める人の心というものが環境を変えてしまう危険性をはらんでいることもわかります。
>きよぴーさん
>最近の地球環境の変化は、その対応をさせることが出来ないほど早いのですね。
なんだか身近にも天候の変化が激しいって感じます。昔はいくらなんでも体温並みの気温って無かったですよね。
>人間のエゴが自分たちの住んでいる環境をどれだけ破壊しているかということを
>自覚しなくてはいけない時期にきているような気がします。
そうですね。行動を起こすにしても、どうすれば本当にプラスになるのか慎重に見極めなきゃなぁという感じです。なかなか難しいですけれど。
動植物は、地球環境の変化にその時々で対応して生き延びてきましたが、
最近の地球環境の変化は、その対応をさせることが出来ないほど早いのですね。
モウソウチクの侵略が環境破壊をもたらしていること、先日テレビで見ました。
ギアナ高地のことといい、モウソウチクのことといい、
人間のエゴが自分たちの住んでいる環境をどれだけ破壊しているかということを
自覚しなくてはいけない時期にきているような気がします。