「貴婦人と一角獣展」

 国立新美術館で開催中の「貴婦人と一角獣展」を見てきました。

「貴婦人と一角獣」は1500年頃制作されたとされる6面の連作タピスリーで、背景の赤に千花模様(ミルフルール)が施され、5面は人間の五感、「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」が表わされています。

それぞれの感覚は、貴婦人が特徴的なしぐさをしていたり、侍女や動物たちのしぐさでそれと分かるようになっていています。全体に同様なモチーフで構成されているので統一感がありながらも、詳細に見ると個別に特徴があって、描かれたものの意味を時間をかけて鑑賞する楽しみが隠されているように感じました。

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「触覚」

貴婦人が左手で一角獣の角に触っています。猿は人のしぐさを表すものとして描かれていたりしますが、ここでは唯一、重石を付けられている姿なのが面白い。

 

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「味覚」

貴婦人が侍女の器から菓子を取って、オウムに与えています。どの場面も赤の背景に紺色のサークルがありますが、ここだけサークルの中にバラの垣根があったので印象に残りました。

 

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「嗅覚」

貴婦人は花輪づくりに余念がなく、猿がバラの花の香りを嗅いでいます。

 

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「聴覚」

パイプオルガンを演奏している貴婦人。パイプオルガンの両端にライオンと一角獣がついているのも面白いです。

そもそもなぜライオンと一角獣かというのは、注文主であるル・ヴィスト家の出身がリヨン「Lyon」でそれからライオン「lion」が、一角獣は足が速く、フランス語で「viste」(すばやい)がル・ヴィスト「Le Viste」に通じる、というような説明書きがありました。

 

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「視覚」

貴婦人が持つ手鏡に一角獣が鏡に映っています。一角獣は大変獰猛で、処女のもとで無ければ大人しくならないと言われているとおり、ここでは貴婦人の膝の上に足を乗せ、鏡に映った自分の顔をうっとり見入っているように見えます。

 

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「我が唯一の望み」

そして最後の1面は、金色の炎模様がある青い幕屋に書かれている言葉から「我が唯一の望み」と題されています。

青い幕屋の前に立つ貴婦人は侍女の差し出す宝石箱から、装飾品を選んで身につけるところなのか、逆に外して戻しているところなのか定かではないそうです。

会場の説明には五感を放棄し自制するという意味での自由意志の称揚、理性、高次の愛、結婚など様々に解釈されるとありました。

私は見た瞬間にピエロ・デラ・フランチェスカの《出産の聖母》を思い浮かべました。宝石より子宝と言った感じでしょうか。もちろん装飾品は宝石箱に戻している派です。まあ、難しいことは分かりませんが、色々想像するのは楽しいものです。

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ピエロ・デラ・フランチェスカ《出産の聖母》

 

タピスリーに描かれているものは人物、動物、植物、色々ありますが、興味がどれにあるかで鑑賞の仕方も様々だと思いました。人物に興味のある人は、貴婦人が誰かであることから始まり、髪型、服装、装飾品、などに思いを馳せるかもしれませんし、動物に興味のある人はどんな動物が、どの場面に、どういう扱いで描かれているか、それに鳥といってもオウムもいれば鷹もいるといった具合で複雑です。私といえばやはり植物が気になりました。

 

まず描かれている木は マツ(触覚)、オレンジ(味覚)、フユナラ(触覚)、セイヨウヒイラギ(触覚)

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ユニークだったのはマツでした。マツと言われて想像するのは、いわゆる尖った葉先が上を向くマツだと思いますが、こちらは大王松(ダイオウショウ、ダイオウマツ)的な垂れた葉のように見えます。何というマツなのでしょうか、気になります。

 

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大王松(ダイオウショウ、ダイオウマツ)

 

千花模様(ミルフルール)に描かれている草花の名前の掲示がありました。ざっと列挙してみると(完璧にメモしたわけではないので(^_^;)

 

野の花 : オダマキ、シオン、ジギタリス、エゾヘビイチゴ、マツヨイセンノウ、ハナダイコン、グラジオラス、ヒアシンス、マーガレット、

キズイセン、ルリハコベ、ヒナギク、ヒメハギ、スミレ、キンセンカ、ニオイスミレなど

庭の花 : コモンジャスミン、ナデシコ、黄のジャスミン

マメ科の植物 : エンドウ、ボウコウマメ、ソラマメ、レンリソウ、クサフジ

描かれている草花は簡略化、図案化されて表されているものも多くあり、何の花だか検討もつきませんでしたが、掲示があったお陰で判別でき大変助かりました。

 

展覧会の会場は、ぐるりと巨大な6面のタピスリーが鑑賞者を囲むように展示されており、「鮮烈な赤の世界」に飲み込まれるような感じがしました。

私にとって「貴婦人と一角獣」の魅力は、何と言っても背景の赤とミルフルールが作り出す平面の力、強さであったように思います。

以前のブログの記事で、この赤い色についての本『完璧な赤 「欲望の色」をめぐる帝国と密偵と大航海の物語』の感想を書いたので、ちょっと付けておきます。

 

国立新美術館 「貴婦人と一角獣展」

「貴婦人と一角獣展」” に対して1件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >みちこさん
    昔からブログにお付き合いいただき、ありがとうございます。
    >今の私の頭には何も残っていません!怖い~。
    このくだり、激しく同意です。欠片もなく、雲散霧消です。
    人間ナマモノですからね、知識にも鮮度があって入れ替えがあるんですよ。忘れる分、無理なく受け入れられたりね、ということに。それに自分の当たり前も変化しますから。
    マヤ暦ですか、詳しく知りません。「赤い空を歩く人」何でしょうね、意味が知りたくなりますね。

  2. みちこ より:

    この展覧会は、大きな見事なポスターを駅に貼っていたので、それを見て満足しちゃいました。
    過去のブログを今読み返して、あらら、このタピストリーだったの、それなら見たかったわ~、と。
    そして、小さなショック。過去のブログに書いてある自分のコメントには、いくつかの知識が当たり前のように書いてありますが、今の私の頭には何も残っていません!怖い~。

    ちなみに、赤と聞いて今私が思い浮かべるのは、マヤ歴のこと。マヤ歴では、私は赤い空を歩く人という分類に入るそうです。ロマンティックなので気に入ってます。あ~、これも忘れちゃうのかなあ。

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