「アントニオ・ロペス展」
渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで「現代スペイン・リアリズムの巨匠 アントニオ・ロペス展」を見てきた。
リーフレットになっていた繊細な少女の絵や、街を描いた《グラン・ビア》を見て、これは絶対に直に作品を見なければと思っていた。
展示は初期の作品から始まって、家族、植物、風景、人体などに分けられていたが、描かれたものはすべて画家の身近にあるものだった。愛する家族、暮らしている街、探求してやまない人体など、長い時間をかけてじっくり対象と向き合い、緻密に描き完成させていく。そのスタンスは油彩や彫刻、時に実験的な表現手法を用いた場合でも、一貫しているように思った。
長女のマリア(9歳)を描いた《マリアの肖像》は、実に落ち着いた美しい作品だった。
少女の表情や、衣服の柔らかさを鉛筆で細やかに描き分ける技術が素晴らしかった。そして何より父親の眼差しが、少女のやがて失われゆく諸々のものを、静かな佇まいの裡に描きだしていることに感動した。
長い歳月(1974~81)をかけてスペインの目抜き通りを描いた《グラン・ビア》は、ほぼ正方形の画面の下半分は道路という、低い視点から描かれている。その為見る者は、正に街の中にいるような臨場感がある。
建物や道路の質感までをリアルに描写していることに驚嘆するが、同時にマドリードの街の空気までも感じられるところが傑作たる所以だ。見えないものを写実したところがこの作品の凄さだと思った。
題名しか知らなかったが、「マルメロの陽光」という映画は、ロペスが庭のマルメロの木を苦労しながら描く様子や、彼を取り巻く日常を淡々と撮った作品だそうだ。
本展に映画で描いた《マルメロの木》があった。未完の作品だが、画面は光に輝くマルメロの美しさに満ちていた。正直に自然に向き合ったら、最高に美しい一瞬は描き切れないのではないか、そんな気がした。未完ゆえに新鮮な感動がそのままに残っているとも言えるし、誠実さであるようにも感じた。
会場に「対象の価値を作品よりも優位に置くこと」というロペスの言葉があった。
未完ながら幸福感のある《マルメロの木》と相まって、とても心に残る言葉だ。
“「アントニオ・ロペス展」” に対して4件のコメントがあります。
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>にしおかさん
こちらこそご無沙汰しております。
ラファエロはほんと早逝ですね。あれだけの作品をあの歳で残せたなんて流石天才です。
それにしても、個性的な顔の女性ばかり描いていて興味深かったです。
名作を前に一人ひとりが違った感想を持つことができるのが、展覧会の楽しみですね。だから、私のも勝手な感想なのですよ~(笑)
にしおかさんは映画にお詳しいから、ご覧になってましたか。「マルメロの陽光」借りてみてみようかと思ってます。かなり淡々とした映画のようですね。
>穏やかでない日々を思い出し反省しきりだったりしますが、
でも何やら楽しそうじゃありませんか。
>「ブログの文章はアップした時に読む」
いや、大したこと書いてないですから、にしおかさんの方がよっぽど独創的ですよ。
ごぶさたいたしております。書き込みさせていただきます。
先月の28、29日に新横浜にいく用事がありましたので上野まで足伸ばしてラファエロ展観ました。残した作品も多いけど随分若く亡くなったんだなぁとか、「大公の聖母」は没後に背景を黒く塗られたとか、ラフな下絵も展示してあったので、現在も作品が進行しているようなライブ感もありで面白かったです。
で!ラファエロ展行くつもりでしたので、画像だけチラ見で、たった今、kyouさんのブログの「伝言ゲームのように…」等の文章を読ませていただき「成程!」と観賞したもの反芻した次第です。
で!で!紹介してあったアントニオ・ロペス展も少女の画像だけ観て「時間あったら観たい」程度だったんですがアントニオ・ロペスって「マルメロの陽光」の画家の人(画家の人?)だったんですね!きれいさっぱり名前忘れてました!
長編映画3本しかないビクトル・エリセ監督のDVDボックスにも何故か入ってなくて、人気ないのかなぁ?とか思ってたんですが、今回の展覧会で再上映あったり、遅筆なのは映画の中でも同じ、10年たっても加筆とか正にライブ進行中、20年前に映画館で観たきりで、一緒に観た友達が「靴下の色」がどうこうとか「あんな馬鹿な描き方する画家が現在いてどうするの?」とかぬかしたんで今でも絶交進行中とか、穏やかでない日々を思い出し反省しきりだったりしますが、ラファエロもだけどアントニオもだった!と、これからは「ブログの文章はアップした時に読む」を徹底!長文失礼しました。
>みちこさん
いつもコメントありがとうございます。
>描くという作業で誠実に向き合うと、結果的には、自分と向き合うことになりますね。
なるほど、そうですね。絵は対象と自分と行き来しながら描いていくものですよね。
ロペスは彫刻も良かったですよ。幼い娘の像は70センチ位、等身大でしょうかね、持って帰りたくなるような可愛さでした。
私も見に行きたいなあ、と思っていました。
kyouさんの感想を読んで、少女の絵を見る限り、非常によさそうですね。
身近なものを描かれているようですが、私たちの生活に何気なく存在しているものに、描くという作業で誠実に向き合うと、結果的には、自分と向き合うことになりますね。
ああ、自分はこういう人間であるのか、と。