『植物はなぜ5000年も生きるのか』

植物はなぜ5000年も生きるのか―寿命からみた動物と植物のちがい (ブルーバックス)

『植物はなぜ5000年も生きるのか』 寿命からみた動物と植物のちがい(ブルーバックス)  鈴木英治/著 (講談社)

 植物には何千年も生きる樹木があるが、なぜ動物には何千年も生きるものがいないのか。

 読み進めていくと、動物と植物では「寿命」の意味が違うので、単純には比較できないことが分かってくる。

 例えば、植物は水を根から吸い上げるのに道管や仮道管という器官を使うが、その細胞は死んで初めて水を通す管として役割を果たす。動物にとって死んだ細胞は、不要であるか有害ですらあるのに、草や木は死んだ細胞と生きた細胞が存在して初めて成り立っていることになるのだ。

 樹木ははじめは細く、それが中心になって一回り二回りと大きくなっていくが、成長するのは外側の方で、中心部分は「心材」という死んだ細胞の集まりに変化していく。

 時々、幹の中心が空洞になって風前の灯のような老木を見ることがあるが、本人としては痛くも痒くもないはずだ。むしろ丸々とした幹だが食害にあって外側がグルリと剥けている、そんな木こそ存亡の危機ということだ。

 木の切り株を見てみると、真ん中周辺の色が濃く、まわりがやや薄い色になっていることが多い。その色の濃くなった部分が心材で、色の変化はフェノールのような物質が加わったためだ。植物は虫や菌の繁殖を防ぐフェノールを加えることによって、材を硬く、腐食しづらい心材に変化させているのだそうだ。

 さらに、道管や仮道管には水を通すように沢山の穴が開いているが、心材になる時は加湿で腐るのを防ぐために、穴はふさがる。だから材木は長い間水に浮かべてあっても水を吸い込まずに沈まないというわけだ。

 う~ん、貯木場の風景や木材を川に流して運ぶ様子など、当たり前のように思っていたが、こんな仕組みになっていたとは知らなかった。

 完全に死んだ細胞だけとなった心材が、樹木たる形を支えることで、生きている細胞が何千年も生を繋いでいくことができ、巨木となっていく。

 考えてみると、生きている樹木の心材と、住宅の柱になっている材木と状態としてあまり変わらないというのも、何だか不思議な気がする。

 このほか、寿命と密接に関わる老化について、さらに過去の生物から寿命がどう進化してきたかなど、動物、植物を比較しながらの興味深い内容が盛り沢山だった。

 最後にちょっと引用を。(テロメアは染色体の末端についているもので、老化に関わると考えられているもの。)

細胞でも、個体が発生する過程などで細胞が積極的に死んでいく「アポトーシス」と呼ばれる現象があります。一例をあげると、胎児の五本指は、指が少しずつ伸びていくというよりも、シャモジのような組織ができてから指と指の間にある組織が死ぬ(アポトーシス)ことによって作られます。 

 細胞がこのように組織だって死んでいくのであれば、個体もある年齢になったら死ぬようにプログラムされていても、不思議ではないとも考えられます。テロメアが分裂のたびに短くなっていく「命の回数券」のようになっているのも、それ以上生きられないようにしているのだと解釈されます。  (p139~140 )

 唐突ですが、アンチエイジングや美魔女さんも悪くはないけれど、老いが行き過ぎて忌避、嫌悪されるのもどうかと思う。歳相応くらいでいいじゃないですか。

『植物はなぜ5000年も生きるのか』” に対して2件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    > みちこさん
    > これでは倒れて当然だ、というのは科学的に間違いなんですね。
    すみません、書き方が悪かったですね。心材は体を支える役目がありますから、なくても枯れることはないけれど、木の耐久性は減少すると思います。

    > 木にとっては、樹皮を剥がされるのが一番堪えるのかあ。
    樹皮のすぐ内側の形成層というのがネックです。

    > またちょくちょく植物の話をアップしてください。
    私も分からないことばかりで、ちゃんと説明できなくて。しかも以前読んで知ったはずのこともすぐ忘れるテイタラクです。

  2. みちこ より:

    たとえに、巨木が倒れるように…というのがありますね。
    街でも台風の直後などに見られますが。
    しかし、倒れた巨木を見て、ああ、こんなに中が空洞になって駄目になっているとは分からなかった、これでは倒れて当然だ、というのは科学的に間違いなんですね。
    とても興味深い内容ですね。
    木にとっては、樹皮を剥がされるのが一番堪えるのかあ。
    またちょくちょく植物の話をアップしてください。

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