身から出た錆
『ミランダ殺し』 マーガレット・ミラー/著 柿沼瑛子/訳 (創元推理文庫)
ペンギン・クラブは、カリフォルニアにあるビーチクラブ。そこには暇を持て余した上流階級の人たちが集う。
匿名の中傷文を書くことが生きがいの老人、ヴァン・アイク。
孤独な悪ガキのフレデリック。
ひねくれたオールドミスの姉妹、コーディリアとジュリエット。
若返り治療にはげむ未亡人のミランダ。
軽薄な女たらしのプール監視員、グレイディー。などなど。
夏の日差しが退屈な一日を一層ぐったりさせるような、そんな日常が続いていた。
一方、ある弁護士事務所では亡夫の遺言を検認のために、ミランダのサインを必要としてるところだった。
彼女との連絡がなかなか取れず、困った事務所は新米弁護士のアラゴンをペンギン・クラブに調査に向かわせた。
そんな折、ミランダとグレイディーの二人が失踪していたことが明らかになる‥‥。
ちょっと嫌味の効いた会話や巧みな人間描写を楽しみつつ、読者は意外な方向へと導かれていく。
過激な言葉や修羅場があるわけでもなく、どちらかといえば淡々と毒を吐きあっている風で、何となく物足りなさも感じるが、こういう大人の味わいも悪くないかなぁ、と。
マーガレット・ミラーを続けて4冊ばかり読んでいるが、この作品が一番後に書かれたもののようで、推理小説の名手が余裕で書いたといった感じ。
ペンギン・クラブに集う人たちといえば、人間の様々なバリエーションを持った愚かさや弱さの品評会のよう。
それを没個性的なアラゴンの目を通してみていくのだが、とりわけミランダの愚かさは哀れを通り越して滑稽に映る。
彼女の愛はあまりに幼稚で、あまりに現実が見えていない。
愛する対象が到底愛するに値しないものの場合は、傍から見て滑稽にしか思えない。
可哀想だとは思うがミランダには全て「身から出た錆」という言葉がぴったりだ。
全編を通して悲劇か喜劇か分からないのだが、ラストは何とも皮肉なもので、何となくありがちのように思えるのが恐かった。