芳年は見た!

芳年冥府彷徨

『芳年冥府彷徨』 島村匠 (文藝春秋)

芳年とは言わずと知れた、幕末・明治と活躍した浮世絵師、月岡芳年。その若かりし頃の話。

ある晩、芳年は物陰から殺人現場を目撃してしまう。殺人者である黒頭巾の男の「殺気」に尋常でないものを感じ、どうしてもこの男を描いてみたいという思いに駆られた。

現場で拾った簪を手がかりに、芳年は黒頭巾の男を捜していくが‥‥。

芳年が好きなのでその興味で読んだが、イマイチかな。芳年の浮世絵以上のインパクトは無かったような。

“あの芳年”が主人公なのだから、もっと小説に凄みと切れ味が出ても良いんじゃないの、と勝手な不満も湧いた。

けれど、殺伐とした時代が彼に与えた影響、兄弟子・芳幾とのライバル関係、官軍vs彰義隊の犠牲者を写生したエピソードなど(後に《魁題百撰相》制作)ファンには楽しいものがあった。

私は残酷なものはあまり好きではないが、芳年というとやはり幕末の残酷絵《英名二十八衆句》を思い出す。

無論ずっとそういうものを描いていたわけではなく、時代を捉えた「新聞錦絵」、静けさを湛えた《月百姿》など、多様な作品を描いている。

それにしても幕末、なぜあのようにスプラッターな残酷絵が人気だったのかと思う。

世の中に不穏な空気が充満し、ざわついた心は更に過激なものを求める。人は漠然とした不安より、手に取れる不安や残酷を眺めることで、現実の不安をコントロールしていたのだろうか。

「血みどろ絵」を手中に収めることで得られるカタルシス。現実の殺戮と架空の殺戮で、現実が勝っていた時代ゆえの人気だったのだろうか。

芳年は生涯に何度か精神に病をきたし、治っては描くということをした。

静けさと狂気を併せ持つ《月のものぐるひ》などを見ると、それが如実に表れているような気がする‥‥。

月岡芳年《月百姿》

「貴重書画像データベース」

http://rarebook.ndl.go.jp/pre/servlet/pre_com_menu.jsp 月百姿で検索

《むさしのの月》 《月のものくるひ》 《源氏夕顔巻》などがお気に入り。

月岡芳年《魁題百撰相》

「東京大学史料編纂所データベース」

http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/ships/shipscontroller →データベース選択画面→図像をさぐる→錦絵→魁題百撰相で検索  たどり着くのに苦労した。

《滋野左衛門佐幸村》 同性愛的な妖しい気配。瞳に白いホシが。

《駒木根八兵衛》 斬新な構図が面白い。

《菅谷九右衛門》 こちらのがずっと『冥府彷徨』

《冷泉判官隆豊》 グロテスク一番。上野でこんな死体を見たのでしょうか。

芳年は見た!” に対して2件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >知之さん
    コメント有難うございます。
    しばらく島村さんの作品を読んでいなかったので、「マドモアゼル」知りませんでした。面白そうですね。

    今年に入ってからブログの仕様を変えたので、以前の記事のコメントとは別の所に入るかもしれません。

  2. 知之 より:

    制約があっても発揮している真面目さ。

    歴史物って島村さん得意なのか、気づいたら
    食い入るように読み込んだりしてます。
    キツイ表現もあるんですけどね・・・。
    最近出た「マドモアゼル」はかなり没頭しました。
    緻密ですし、島村さんの真摯な仕事ぶりを十二分に感じました。

    そんな島村さんの評論をしてるサイト、あんまり無いんですが、
    見つけたので貼っておきます。
    http://www.birthday-energy.co.jp/

    「マドモアゼル」に関しては極上の国際サスペンスだそうで。
    これからも期待できそうですね!!

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