天邪鬼同士
『物狂ほしけれ』 車谷長吉 (平凡社)
車谷長吉というと超技巧的な私小説が有名。『赤目四十八瀧心中未遂』を読んでから、何となく嫌悪感を抱きながらも何冊か読んだ。
けれど何年か前からもう私小説は執筆されないそうで、本書はエッセイ。
内容は「徒然草独言」「反時代的毒虫の作法」「車谷長吉氏への50の質問」の三本柱。「徒然草独言」は「徒然草」を通して人生や世の中について書かれたものだ。
兼好は強い人だったから、強迫神経症に囚われるというようなことはなかっただろう。「あやしうこそものぐるほしけれ。」に堪えた人だった。「狂う」ということは、ない人だった。徒然草は実に曇りのない目で、この世のことが書いてある。恐ろしい人である。私の場合は「いやし」を求めるような男であったから、狂うたのである。 (p26~27「つれづれ」より)
男尊女卑なことも平気でいうが、何しろ反時代的毒虫を自認し、現代に背を向けて生きているのだから仕方がない。
世捨人になりたいとしながら、世を捨てきれずに執筆活動をしているところが、ある作家たちからは「往生際が悪い」と言われるそうだが、そのとおりだと可笑しくなった。
書いてあることは繰り返し氏が述べていいることが多く、やや辟易としなくもないが、「作家とは強烈なる自意識の塊」とあらためて思った。
著者自身にまつわること以外のことを書いた本を読んでみたい気がした。
「車谷長吉氏への50の質問」は奇人変人の面目躍如と言った感じで異彩を放っていた。