おもしろの花の都
『謎解き 洛中洛外図』 黒田日出男 (岩波新書)
対象作品は上杉家旧蔵、現在米沢市の所蔵となっている《上杉本洛中洛外図屏風》
この六曲一双の壮麗な屏風は、かの織田信長が上杉謙信に贈ったものだ。しかも作者は狩野永徳とされ、超ビッグネームが並んでますますその魅力を高めている。
しかし1984年、一人の研究者がこの屏風の景観年代を特定し、その結果、作者の永徳は当時わずか4歳であるとして、この作品は永徳筆ではないと結論付けた。
それに対し騒然と反論が起こったが、同時に、美術史、日本史、建築史など様々な立場の研究者からの研究が進んだ。
著者はその研究の歴史を一つずつ検証しながら、いつ制作されたか、作者は誰か、注文主は誰か、いつ誰が上杉謙信へ贈ったか、を解明していく。
ついこの間まで「狩野永徳展」が京都で行われ、TVでも多く取り上げられていたが、残念至極、見ることが出来なかった。
(HPの表紙がとってもきれいです。) http://eitoku.exh.jp/index.html
洛中洛外図は知られているもので70点以上あるそうだ。私はその中で個性的な作品とされる《舟木本洛中洛外図屏風》が特に好きだ。
作者の特定はされていないが、エキセントリックな「山中常盤物語」で知られる岩佐又兵衛といわれている。
アートセレクションシリーズから出ているものが、詳しくて面白い。
『洛中洛外図 舟木本 町のにぎわいが聞こえる』 奥平俊六 (小学館)
これがちょうど東京国立博物館で、11/20から12/24まで展示される。また11/27には表慶館・対話の間で作品解説もあるようだ。
http://www.tnm.jp/jp/servlet/Con?pageId=B07&processId=02&colid=A11168
《舟木本洛中洛外図屏風 部分 六条三筋町遊里で踊る女》
《舟木本洛中洛外図屏風 部分 五条 本屋の前の歩き巫女》
上杉本の狩野永徳の人物描写は、卓越した腕でサラリと描かれ、素朴で優しく温かみがある。屏風全体も美しく優雅な花の都を表現していると思う。
一方、舟木本はもっとダイナミックな感じがする。作者は様々な階層の人物を、実に写実的に描いている。美しいだけではない、生々しい人間の営みも描いている。
そのあたりを、是非じっくり見たいものだと思っている。