心の遠近法

「金刀比羅宮 書院の美展」を見る前に、「パルマ展」を見ていたので、そちらの感想もアップ。
って、遅すぎるか。

「パルマ展」は、調和のルネサンスから変化と不均衡のマニエリスムへ、さらにバロックに至る過程を目の当たりにする面白さがあった。
個々の作品というより、主題の捕らえられ方、描き方の「変遷」に精神的な変化が見られるようで興味深かった。

印象に残った作品は、マニエリスムを代表するパルミジャニーノの作品。
《聖カタリナの神秘の結婚》はオレンジ色が発光しているようで不思議な美しさがあった。


《聖カタリナの神秘の結婚》

《聖チェチリア》は、私には人物の目が異常に大きく感じられて、ちょっとアニメの主人公のように思えた。パルミジャニーノの作品は、もっとマニエリスム色の濃いものが見たかったが、素描はとても素晴らしかった。

この展覧会では「素描および版画」として、他にも沢山の質の高い素描や版画があって油彩に劣らない完成度で見ごたえがあった。
パルミジャニーノのセルペンティナータ(蛇状曲線)で有名な《首の長い聖母》の習作があった。
紙に褐色インクなどで描かれたもので、習作ではまだ蛇状曲線のひねりがなかったのが印象的だった。


《首の長い聖母》

パルミジャニーノの描くキュピッドや子供の顔は、ラファエロのような穏やかさは無くて、どこか思わせぶりな、うっすら邪悪なのが面白い。


《弓を作るキューピッド》

このキューピッドは両性具有的で官能的。どう見ても女性の身体に無理やり少年の顔をくっ付けたよう。
挑発的に書物の上で愛の弓を削る大胆さ、イッパシに略奪愛の小悪魔的キューピッドの皮肉な目付きがツボ。

こういう絵は自分が独占して見ていたくなる絵だと思う。この絵はパルマの貴族のために描かれ、後にルドルフ2世のコレクションに入ったそうだ。


カミッロ・ボッカッチーノ《弓王座の聖母子と大天使ミカエル、聖ヴィンチェンツオ・フェレール》

上の絵もそうだが、展示されているマニエリスムの絵画を見ていると、曲線や回転の多い画面に落ち着かなさを感じ、どこか少しずつ狂っているような人体に不安感を掻き立てられる。

ミケランジェロやラファエロを摸倣しつつ超えなければならない画家たちの葛藤や心の揺らぎ、社会の変動による不安がマニエリスムには濃厚に漂う感じがする。
ルネサンスの幾何学的な遠近法が、マニエリスムでは個人の心が基準になった心の遠近法に変わったように思えた。

バロックに入ると、不安定な形態は、カラバッジョに代表される強烈な明暗法で確固たる形を取り戻したかに見える。
主題はよりピンポイントになり、ドラマチックにクローズアップされている。


バルトロメオ・スケドーニ《キリストの墓の前のマリアたち》

スケドーニの作品をはじめて見たが、強いライトで照らし出されたような感じだ。
写実的な描写にも拘らず現実感がないのは、この強烈な明暗が日常性を超えているからだろうか。
簡略化された色彩が、すっきりと洗練されていて美しかった。

絵画ではないが、会場に入って直ぐの展示で、《マヨルカ陶製の床タイル》があり、その文様がとても面白かった。
孔雀の羽の束を握った手、口にバラをくわえた男性の顔、カーネーションをくわえた女性の顔など、素朴だけど意味ありげ。
特に、驢馬と何だか分からないモノが隅に描かれているのは面白かった。何か寓話でもあるのだろうか。
会場での下手なスケッチだけどこんな感じ‥

正直、この後に見た「金刀比羅宮」の応挙の精神性の高さ、若冲の卓越した意匠に、どうもパルマの印象が薄くなってしまった感じだった。
勿体無かったかな。

 

「パルマ―イタリア美術、もう一つの都」展 http://parma2007.jp/

展覧会

前の記事

二種類の植物画

次の記事

エンターテイメント2作品