二種類の植物画

    
「金刀比羅宮 書院の美 -応挙・若冲・岸岱-」を見てきた。

入場料1300円で、同時開催の「歌川広重《名所江戸百景》のすべて」も見ることが出来る。
これも金毘羅大権現のお陰か、一度で二度美味しいとはこのことだ。

正直私は、金刀比羅宮にこんなに沢山の傑作がある事も知らず、岸岱(がんたい)も初耳で、はじめて見る作品の素晴らしさに圧倒されっぱなしだった。
展示方法も、出来る限り書院の空間を再現するように工夫され、障壁画に囲まれた空間を体験できるようになっていて、とても面白かった。

金刀比羅宮は表書院と奥書院があり、表書院には円山応挙、邨田丹陵、奥書院には伊藤若冲と岸岱の作品がある。表書院の「虎の間」、応挙の《遊虎図》はインパクトがあった。

実際に四方を虎に囲まれたら、それはそれは恐いだろうと思うが、この虎たちは申し訳ないけれどとても可愛い。
絵の前にいると、自分が虎と同じ野山にいる心地、自分がその空間に含まれているような感じがした。
個人的にこの展覧会で一番興味深かったのは、それぞれの作品を植物画と言ってよいか分からないが、若冲の植物画と岸岱の植物画を比較することが出来た事だ。

若冲の「上段の間」は、ほぼ同じ大きさに統一された200を超える花々が、襖や壁に整然と描かれている。一つを除いて、どれも一種類の植物が描かれていて、背景を描かず植物のみを写実的に描いたところは、植物画そのものといった感じがした。6畳ほどの狭い空間全体が、一冊の「植物図譜」に思えた。

また「あの花は何々だ」と覚えたり、何人かで居るときなどは「右から3列目の上から2段目は?」と、なぞなぞみたいなことをして遊んだのではないかと、思わず想像してしまった。

応挙や岸岱の障壁画が、四方に描かれた絵によって一つの意図されたダイナミックな空間を作っているのとは違い、若冲は、まるで壁紙のパターンのようなイメージで絵を描いているのがとても面白く、かえって他には無い斬新な空間を作っていると思った。

植物画には標本画と生態画の二種類があるといわれている。
標本画は、植物のみをありのままに描くもので背景は一切描かない。それに対して生態画は、その植物を描くと共に、その植物が生えている環境(他の植物、土、落ち葉等々)を含めて写生するものだ。
若冲の《花丸図》は標本画で、岸岱の《水辺花鳥図》や《春野稚松図》は生態画のようだと感じた。


《水辺花鳥図 部分》


《春野稚松図部分》

また、《花丸図》については、幾つか素朴な疑問が沸いてきた。

一つ目は、何故、花「丸」図なのかと思ったのだ。丸い枠に入っているわけでもなく、むしろ長方形に収まっている感じで、何故「丸」なのだろうと思った。
「丸」は丸ごとの丸で、全て花ばかりだという意味だろうか?一つ一つの花が円(丸)のように完璧で正確な花の絵、という味だろうか?

二つ目は、只一つヤマユリとガンピだけ二種類描かれているが、何か意味があるのかと不思議に思った。

まさか、二つ上がユリで、間違えて続いてしまったのでちょっと変化の為に赤を差した‥なんてことある分けないし。全体の色のバランスで、そこに赤を持っていきたかったのだろうか?ガンピを知らなかったので調べたら、がんぴ=岩菲(ナデシコ科)とあった。

三つ目は、図録にシャクヤクと名前が書かれていたもの
どう見ても青く見えるが、青いシャクヤクってあるのだろうか?シャクヤクと言うと赤から白までの間のバリエーションと、黄色しか知らないけれど。
顔料が変色したのだろうか、顔料についてはよく分からないので何ともいえない。

四つ目は、疑問と言うものでもないが黄色の花が少ないように感じた。
図録の説明によると、背景に後世、別の絵師の手で金砂子が蒔かれてしまった可能性もあるそうだ。そのせいで一層黄色が目立たなくなってしまったのかもしれない。
黄色に限らないが、もっとシンプルな背景であれば、より植物の細かな描写が際立ったではずだと思った。
襖の一番下の隅にあるヒマワリは黄色がよく確認できるが、他はあまり見当たらない感じがした。
ツワブキは黄色のはずなんだが、白っぽく見える。キクやビヨウヤナギ、ヤエヤマブキも同様に白っぽく見える。退色してしまったのだろうか?
また、応挙の作品も、同様に金砂子が後世の絵師によって蒔かれたとの事で、それを考慮するとなると、全くイメージが違ってしまい、こちらもとても残念だ。

障壁画以外の展示も、絵馬や金毘羅参りの屏風絵、船模型など、何となくワクワクとしてくる楽しい展示が沢山あった。
中でも、小さな犬の置物がちょこんと一つ置いてあるのが目を引き、何かと思ったら「こんぴら狗」と書いてあった。
この狗は、飼い主に代わってお参りをするのだという、代参人ならぬ代参犬だ。

道中の食費や初穂料を入れた袋を首に巻き、旅人がリレーして面倒をみるなどして、無事にお参りを済ませたら、また家族の元へ帰っていくのだそうだ。‥‥いい話じゃありませんか。

続いて「歌川広重《名所江戸百景》のすべて」展へ。

言わずと知れた、名所江戸百景。お馴染みの作品が沢山ある。
今と昔を行きつ戻りつ想像しながら見るのは実に楽しい。それも全作品、一堂に見られると言うのだから、あり難い。こういう機会はそうそう無いのではと思った。

《猿わか町よるの景》を見ると、月明かりで人々の影が出来ているの見えるが、現代のあまりに明るい夜では、月の明るさを実感することは難しい‥‥。
四季折々の自然や、風俗を見るにつけ、タイムスリップして江戸をちょっと体験してみたい気がした。

一作ごと書かれている解説がゆっくり読みたくて、図録を買ってしまった。
入場料は無料になったけど「金刀比羅宮 書院の美」と図録が二冊。この出費はちょっと痛かったな。

 

「金刀比羅宮 書院の美 -応挙・若冲・岸岱-」http://www.asahi.com/konpira/

「東京藝術大学大学美術館」http://www.geidai.ac.jp/museum/