怖い絵ありますか?

怖い絵 (文春文庫)

『怖い絵』 久世光彦 (文春文庫)

怖い絵は、なにも地獄草子やボッシュの化け物の絵というわけではない。

自分にとっての怖い絵は、怖い記憶を思い出させる絵なのかもしれない。

どんな絵でも、そこに描かれている何かが、心の傷跡を再び開かせるから怖いのだ。

思い出したくなくても、思い出させるから怖い。

けれど人はその痛みも怖さも、けして嫌いではないのかもしれない。

むしろ確認しなければならない、大事なことだったりするのかもしれない。

だから人は怖い絵を、繰り返し、繰り返し、見たくなるのではないだろうか。

この本には戦中戦後を少年から青年として生きた久世氏の、陰陰滅滅たる告白めいた話が詰まっている。

弱く惨めな自分に絶望するけれど怠惰で、自分も傷ついたけれど相手もそれ以上に傷つけて。

久世氏の言葉を借りれば、ビアズレーの絵の黒い血が流れるような話ばかりだ。

登場する「怖いながらも惹かれる絵」は、なるほどと頷ける作品ばかり。

ロシアのイコン、ベックリン「死の島」、高島野十郎「蝋燭」、甲斐庄楠音「二人道成寺」

竹中英太郎「陰獣」、モロー「出現」、ビアズレー「サロメ」、クノップフ「廃市」等々。

特に強烈な印象は甲斐庄楠音(カイノショウ タダオト)の絵。

土田麦僊が「穢い絵」として国展会場から撤去させたという楠音の絵。

誰でも一度見たら忘れられないのではないだろうか。

「甲斐庄楠音研究室」

http://members.at.infoseek.co.jp/kainoshou/

トップページから[作品]→[酔う女]→「舞う」大正13頃が「二人道成寺」

となりの「花宵」には言葉を失う。「横櫛」は岩井志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』の表紙に使われている。

久世氏はこの章で、10歳と14歳の時に見た女の死体の話をしている。

生々しい死体を前に少年は、性的興奮を覚えたしまったのだそうだ‥‥。

‥‥もしあの朝、誰かと目が合い、もしその誰かが私を見てニヤリと笑ったりしたなら、私は恥ずかしさのあまり自殺していたかもしれない。 (P100~101)

麦僊は楠音の絵の中に、行ってはいけない不浄な世界、膿みただれ病んだ世界を見抜いたのだろうか。

穢いとまでいわれた甲斐庄楠音は、女性の何を描きたかったのだろう。

「花宵」を見ていると、濁ったドロドロの沼を見ているような気がする。

死んで腐肉となっても男の人を食べ続けているようで、心底不気味だ。

「二人道成寺」は、腸詰か陰部、金色の目をした悪魔、まるでロールシャッハテストみたいだ。

一人一人、怖い絵というのはあると思う。

私が怖いと思うのはフランシス・ベーコンだ。

ザアザアと流れる筆あとの中にいる人物の絵などは、追い詰められた時の自分そのもの。

問い詰められて、心が潰されそうになった時を思い出させる。

怪物のような肉の塊も、それこそ人間なのだと怖くなる。

http://www.ibiblio.org/wm/paint/auth/bacon/

http://www.ibiblio.org/wm/paint/auth/bacon/1944/

この本をベッドで読みながら寝たら、とっても夢見が悪かった。

懲りて、昼間に読むことにしたけれど。

怖い絵ありますか?” に対して4件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    > monksiiruさん
    ブログで紹介されていたこの本、どうしても読みたくて探しました。
    私の読んだのは、単行本でしたけれど。良い本との出会いに感謝です。

    >特に「春宵」の女性という性の醜いところをこれでもかと濃縮、凝縮しているような花魁の絵です。リアリティを通り越して恐怖にさせているのが甲斐庄楠音の描く質感の技量の高さではないかと思います。
    そうですね。ある意味こんな絵は見たことがないです。すごいパワーだとは思います。
    「横櫛」あたりはまだ普通の女性の描き方、まだ美しいと言える物が残っています。
    でも、「春宵」あたりでは女性をどういうものとして描いていたのか分からなくなります。
    醜さを描きたかったのでしょうか、本性を描きたかった結果でしょうか。
    「二人道成寺」の女性は、もうこの世の人間ではないような感じがします。
    そういう死の穢れを直感して、麦僊は「穢い絵」といったのかと思います。

    こちらこそ、来年もよろしくお願いします。
    お互いに来年も、素敵な作品との出会いがあると良いですね。

  2. kyou2 より:

    >みちこさん
    こちらこそ、いつもながらユニークなコメントありがとう。

    >怖がらせるために描いたみたいな絵なんだもん。。。
    そう言う訳ではないと思うのですが、大分前ですが、実際に展覧会で見た時はかなりの衝撃度でしたよ。結構大きいしね。
    ちょっと時間が止まったような感じでしょうか。

    > 甲斐庄という人は、絵より名前が怖い。本名?
    甲斐荘というのが本名のようです、由緒正しいお家柄みたいです。上の↑サイトの受け売りですが。

    >人間の闇を当然としてもいけないけれど、責めて無くなるものでもないですらね。適切に対処するしかないと思います。

    水木しげるさんの漫画を実際あまり読んだ事がないので、原画がはっきり分からないのくて、テレビの鬼太郎に出てくる人物からしか判断できませんが‥‥
    何となく、精気がなくて、弱弱しい感じかな。(あっ、これすぐ殺されちゃう人かな)
    想像を絶する御苦労をなさって、人間嫌いになったのかもしれませんね。だから妖怪の方が生き生きと個性的ですものね。目玉のオヤジは可愛いですね。

    >それと、梅図かづおさんの「まことちゃん」あれも怖かった~。
    > ホラー描いてる人がホラー書くのは、とても健全な印象で全然大丈夫なんですが、‥‥
    「まことちゃん」懐かしい~。鮫のような表情とは的を射ているなぁ。
    梅図さんと同じ真っ黒な目で、読めないですね。何かがぎっしり詰まっているのか、全くの空虚なのか怖くなります。

    >怖さにも健全性ってのが必要ですよ。人間の精神なんて、簡単に狂っちゃうんだから。もう。
    甲斐庄楠音の絵って、そういう絵だと思います。

  3. monksiiru より:

    kyou2さん、怖い絵お読みになられたのですね。
    甲斐庄楠音の絵はやっぱり強烈ですよね。特に「春宵」の女性という性の醜いところをこれでもかと濃縮、凝縮しているような花魁の絵です。リアリティを通り越して恐怖にさせているのが甲斐庄楠音の描く質感の技量の高さではないかと思います。
    寝る前にこの本読むと夢に絵が出てきますよねー。素敵な悪夢が見たい時には最適な一冊?でしょうか(笑)
    本年はいろいろありがとうございました。
    kyou2さん、良いお年をお過ごし下さい。
    来年もまた浮世絵、絵画、本などなどのブログ日記
    楽しみにしております。

  4. みちこ より:

    朝読んでいるせいか、キョーさんの通して読んでいるせいか、とても楽しく読みました。(こういう本、枕元に置いて寝ちゃ駄目じゃん)
    ベーコンの絵を見たときには、思わず吹き出しそうになっちゃった。怖がらせるために描いたみたいな絵なんだもん。。。
    甲斐庄という人は、絵より名前が怖い。本名?
    岩井志麻子さんは、一度テレビでお顔を拝見したことがあったので、横櫛の女性に瓜二つなのには笑ってしまいました。
    不穏な言い方ですが、岩井さんの顔、ものすごいインパクトありますよね。一体どういう性格なんだろ?こわ~って、見たとき思いましたもん。
    久世さんは、繊細な人なんですね。死体で性的興奮して自己嫌悪。先日も小学校教諭でそういうのが居ましたが、人間の闇を当然としてもいけないけれど、責めて無くなるものでもないですからね。
    適切に対処するしかないと思います。自分の中の闇を対処する方法は、女性のほうが心得ているみたいに見えますね。世間の人たちを見ていると。
    ちなみに私が怖いのは、水木しげるさんの描く庶民の顔。彼はボルネオ(だったと思いますが)で九死に一生を得て復員されたようですが、その時の恐怖が絵に現れるようで、心底ぞーっとする人間の顔なんだもの。彼の絵を見ると、文字通り、生きてく気力を奪われちゃう。だから腹が立つことあります。人間の目に晒してはいけない絵じゃん!って。
    それと、梅図かづおさんの「まことちゃん」あれも怖かった~。
    ホラー描いてる人がホラー書くのは、とても健全な印象で全然大丈夫なんですが、あのまことちゃんの鮫のような表情の無い目と口は。。。ぶるぶる。。。
    怖さにも健全性ってのが必要ですよ。人間の精神なんて、簡単に狂っちゃうんだから。もう。

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