若冲の描いたモノは?

奇想の図譜 (ちくま学芸文庫)
『奇想の図譜』 辻惟雄 (ちくま学芸文庫)

奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)
『奇想の系譜』 辻惟雄 (ちくま学芸文庫)

『奇想の系譜』はかなり前に読んだが、若冲の「動植綵絵」を見たり、辻さんのテレビ放送を見たりして、またじっくり読み直してみた。
何より生きのいい、勢いのある著者の熱意が伝わってくるような評論だとあらためて思う。エキセントリックという新たな価値の創造が、今でも鮮烈だ。

『奇想の図譜』は、『系譜』の後に出された姉妹編ともいうべき本であったが、私は浅はかにも、同じような本かと思って怠慢にも読まずじまいだった。
今回は是非続けて読んでみようと思い、読んでみた!‥‥これが『系譜』に勝るとも劣らぬほど実に素晴らしい本だった。
『系譜』では取り上げていない葛飾北斎、「洛中洛外図」、写楽についての架空問答など興味深い内容がぎっしり。特に「かざり」という観点から、日本美術の特質を説いたところは圧巻。西洋的造形との違いも浮き彫りにされた思いがした。
しかし、個人的にはこの一言、おっ、これか!と引っ掛かるモノがあった。
若冲の「動植綵絵」についての記述の中で、

・「薔薇小禽図」バラのおびただしい連なりが、氷河のように空間を侵食しつつ、ゆっくりと降りてくる。その一つ一つの花は、例によって正面向きであり、こちらを凝視する無数の目を錯覚させる。太湖石の穴からも覗くバラの目‥‥。 (P142~148)

太湖石! 太湖石って何だ? と思って、調べてみると、
たい・こ【太湖】中国江蘇省にある淡水湖。面積2428平方㌖ タイフー。
-せき【太湖石】寝食による奇形の石灰岩。庭石や盆石につかう。もと太湖で多く産出した。日本では岐阜県明星山から産出。(大辞泉)

(画像は太湖石が沢山ある中国の石材店のサイト http://www.bjtxqs.com/3.htm からお借りしました。やたら重いです。)

きっとご存知の方も多いのだろうが、ナンセ初めて読んで知った。
いつも若冲の絵を見ると何だろうと思っていた“岩とも樹ともつかぬ奇妙なもの”は太湖石にコケが生えたものなのだろうか。


「紫陽花双鶏図 部分」


「老松孔雀図 部分」


「菊花流水図 部分」

私は、単にコケが生えた奇妙な形の岩、あるいは極楽浄土を飾る七宝の一つで瑪瑙かなと考えていた。

ところで、件の“太湖石の穴からも覗く目…。”だが、


「薔薇小禽獣図 部分」

形状は太湖石であるように見えるが、どうみても上記のものとは色もコケの具合も違う。
コケはコケでもゼニゴケみたいなものからの意匠?

(画像は http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/BotanicalGarden-F.htmlよりお借りしました。)

下の写真は破れ傘と呼ばれる雌株だそう、この星形なんかそれらしい?
若冲の絵はどんなものでも写実からはじまって、若冲の形になっているように思う。一体どんな変換を経てあの黒蛇のような不気味な形に辿り着いたのだろうか‥‥。
太湖石の穴から薔薇が覗くように、雪が作る不自然な穴、葉っぱにあく穴、若冲はこの穴の意匠が何故かとても気にかかっているよう。
私には薔薇は目とは見えなかったけれど、「目」に見えたら相当怖いだろうな。
‥‥などなど、勝手に想像をめぐらしてみた次第。

若冲の描いたモノは?” に対して1件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >ワインさん
    > エキセントリックということばには、両極端な、バランス感覚を欠いた、とか、そういう意味合いがあるように思います。‥‥

    なるほど、否定的な意味合いを含むエキセントリックを使うことに疑問を感じているわけなんですね。
    辻氏の使うエキセントリックはその否定的な意味合いを、積極的に受け入れて兎角異端だ、ゲテモノだという扱われ方をした画家達を、その奇矯さにおいて新しい価値を見出し、日本美術の中に確固たる地位を築いたものではないかと思います。

    >人を惹きつけるための宣伝文句にその単語が乱用されている、そんな気が若冲に対して言われる「エキセントリック」にも感じられるんですね。

    流行語じゃないけれど、キャッチフレーズに踊らされるというか、そういうことありますね。
    レッテルを貼ると、何でも分かりやすくなりますよね。
    みんなと同じように感じることに、喜びと安心を感じる人が多いのかも。
    作品に対する感じ方は人それぞれ、価値判断も人それぞれ、宣伝文句どおりの感じ方をする必要は無いわけですよね。

  2. ワイン より:

    ちょっと言葉が足りなかったかなと思いまして付けたしですけど、
    エキセントリックということばには、両極端な、バランス感覚を欠いた、とか、そういう意味合いがあるように思います。つまりものすごーく○○なんだけど、どこか極端すぎて善くないという否定的な意味合いですね。
    若冲の絵が並外れて刺激的で、魅力的で、そして同時代の絵師の作品からは想像もつかないようなエネルギーを秘めているとしても、そのような意味でエキセントリックという単語がぴったりくるのかなあと、ちょっと思ったんです。
    全然次元が違うかもしれないけれど、最近新聞でこんな記事をみました。中国人で抜群に才能のある若いピアニストのことを日本で「巨匠」とまつりあげて宣伝しているんですって。完璧な技術、そしてかつて生きた巨匠の演奏さながらの堂々たる演奏姿・・でもそれを(つまり見かけだけで)巨匠と呼べるのか否か。
    人を惹きつけるための宣伝文句にその単語が乱用されている、そんな気が若冲に対して言われる「エキセントリック」にも感じられるんですね。
    まあ・・どうでもいいって言っちゃえばそれまでのこと・・だれがなんと言おうが若冲は若冲なのですものね。

  3. kyou2 より:

    >みちこさん
    > こういった穴とか、コケとか、同じものが細かくたくさんあるというのは、自然界には当然たくさんあるわけですが、奇妙な生理的感覚を刺激しますね。

    著者も、若冲の絵に対して増殖するイメージの多用を指摘してます。何だか生命の強靭さを感じますよね。

    >知らないからキス出来るんだ!!という感じでした。。。。

    男女の仲って、知らぬが花って事が沢山ありますね(笑

  4. みちこ より:

    たくさん写真が載せてあるので興味深く拝見しました。
    こういった穴とか、コケとか、同じものが細かくたくさんあるというのは、自然界には当然たくさんあるわけですが、奇妙な生理的感覚を刺激しますね。
    気持ち悪いと気持ち良い。
    その両極端を、微妙なところで分けてしまいますから。
    実際見ると気持ち悪いものでも、絵にすると気持ち良いとか。その逆もありますし。
    以前、人間の歯についている細菌を顕微鏡で見たことありますが、うぎゃ~!知らないからキス出来るんだ!!
    という感じでした。。。。

  5. kyou2 より:

    >ワインさん
    >私には岩場に貼り付いたイソギンチャクに見えるわ。

    面白いですね~。そういわれるとそう見えるような。

    >若冲がエキセントリックかとあらためてよーく考えてみると・・ちょっと違うかなという気がしないでもないです。奇想といわれれば納得なんですが。

    ワインさんの微妙な語感が難しいですね。
    画面の中に現実の再現ではなくて、現実をファンタジックに再構成しているのが若冲の若冲たるゆえんで、そういうところが奇想だと思います。

  6. ワイン より:

    私には岩場に貼り付いたイソギンチャクに見えるわ。
    バラには失礼かもですが・・(笑)
    奇想をエキセントリックと横文字におきかえると、不思議と今に通じる親近感を覚えますね。だけど、若冲がエキセントリックかとあらためてよーく考えてみると・・ちょっと違うかなという気がしないでもないです。奇想といわれれば納得なんですが。kyouさんはどうお感じになりますか?

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