絵巻を読み解く楽しみ

謎解き 伴大納言絵巻
『謎解き 伴大納言絵巻』 黒田日出男 (小学館)

この前読んだ『龍の棲む日本』と同じ著者。
『龍の棲む日本』では膨大な文献や絵画資料を精読精査し、考察から仮説への道筋を読者に分り易い形で提示してくれていた。
その鮮やかさに引き込まれていたところ、先日感動の対面をした「出光美術館名品展Ⅰ」の「伴大納言絵巻」についての著作があるのを知り、今回早速読んだという次第。

「伴大納言絵巻」には何十年来の謎がある。
それは、巻頭から描かれている一連の応天門炎上の場面から、一転して静寂な場面になったところ。
そこに一人、後ろ姿の人物がいる。それが誰であるのか。またそれに続く清涼殿の広廂(ひろびさし)に座す人物、さらにその内側で清和天皇と相対する人物、いったい彼らは誰なのか、というもの。

               
後ろ姿の人物        広廂の人物         清和天皇(左)と対する人物

著者は1933年福井利吉郎氏の論文で、この場面の問題提起がなされて以来、諸説が入り乱れている状態(じつに10もの説がある!)に終止符を打つべく、それらを個々に検証・論破し、一つの結論を導く。

実は、出光美術館で実物を見たあと館内で

伴大納言絵巻 (アートセレクション)
『思いっきり味わいつくす 伴大納言絵巻』 黒田泰三 (小学館)も購入していた。

こちらは図版がカラーで大きく、色も実物とそれほど違和感がない。
絵巻の上下に簡潔で堅苦しくない説明や、語句説明が入り、とても分り易いつくりになっている楽しい一冊だ。
『謎解き~』ではカラー図版が少ないので、こちらで絵を見ながらフムフムと読んだ。
しかし、例の三人の人物の特定、さらにはその「謎」を作ってしまった原因については、両者の説は異なる。

話を『謎解き 伴大納言絵巻』にもどすと、黒田日出男氏の凄いところは過去の諸説に精通し、公平に是々非々を下しているところ。
研究者なら当然のことと思っていたが、読んでいると案外そうでない人もいるので、素人のこちらは逆にびっくりした。

そして諸説を踏まえたうえで最終的に「謎」を作り出している絵巻の現状に立ち返り、作品に描かれた人物、霞、樹木、門など徹底的に分析することから、謎の人物の特定とそれを含めた当初の絵巻の「想定復元案」を提示している。
中でも興味深かったのは「伴大納言絵巻」に描かれた人物の、各場面における人数と男・女・童の内訳表。
因みに火災シーンの人数は男219人、女5人、童7人の計231人。
全巻とおして女性は、456人中、39人ととても少ない。

しかし、その登場の仕方が実に印象的で計算されているのだ。
源信が放火の汚名を着せられたが赦免されることになって、悲嘆が一転喜びに変わるところでは源信邸の女房達14人に、策略がバレて伴善男が逮捕されるどん底の絶望感は、同じく伴善男邸の女房10人で表現している。

源信と伴善男の運命の対比を、女房達のリアルな感情表現で描き出したところ、見れば見るほど、知れば知るほど凄い作品だと感心した。

絵巻を読み解く楽しみ” に対して3件のコメントがあります。

  1. Tak より:

    こんにちは。
    TBありがとうございました。

    色々あってお返事おそくなりましたが
    こちらからも送らせていただきます。

  2. 弥勒 より:

    好きですね。

  3. みちこ より:

    黒田日出男氏の研究姿勢は素晴らしいものなのですね。kyouさんの感想を読んで思いました。
    最近私は、『味わい尽くす』という行為に、いたく感じるところがありまして。。。(大げさ?)

    kyouさんの最後の文章のように、見れば見るほど、知れば知るほど、という感覚を、一つ一つの行為に求めたら、どうなるんだろう?と思うのです。例えば、食べることにそれを求めると、ある野生の動物の肉を口にしたときに、その動物の生涯が伝わってくるような食べ方をしたら、どんな感動があるんだろう?とか。そのときにやっと、その動物の本質をエネルギーとして取り込めるんじゃないか?って。自分だったら、そんな風に食べてもらえれば本望だなって。

    ところで、平安時代、一体、庶民はどんな生活をしていたんですか?万葉集を見ると、貧しい農民が素敵な和歌を読んでいて驚くんですが、平安時代の庶民は貴族とはかけ離れていたんでしょうか。

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