悪妻二人

妻を殺したかった男 (河出文庫)

『妻を殺したかった男』 パトリシア・ハイスミス著/佐宗鈴夫訳 (河出文庫)

弁護士のウォルターは、妻に対しての不満が少しずつ増えていった。

彼の友達を毛嫌いするところ、嫉妬深いところ、エキセントリックで自分勝手なところ。

ある日彼は、ハイウェイ脇の森林で女性の惨殺死体が見つかったという新聞記事を見つける。

妻への不満が、憎悪や小さな殺意にまで膨らんだ頃、ウォルターは、ふと、殺された女性の夫メルキオール・キンメルがどんな人物だか見に行こうと思い立つ。彼は夫こそが犯人だと考えているのだ。

しばらくして、ウォルターの妻がキンメルの妻と同じように死ぬ。自殺か他殺か事故死か判然としないまま、二人の夫は互いに関わりあい、運命の坂を転落していくことになる…。

「君子危うきに近寄らず」何も新聞沙汰になった男など見に行かなければよかったのだ。ましてや、そこで…

原題は『The Blunderer(どじな奴)』というそうだ。まぁ、ちょっとした思い付きでやったこと、無意識にしたこと、出来心でしたことが結果的に最悪な事態を引き起こすことがある。

反対に妙に拘ってやってしまったこと、無性に我慢できなくてやってしまったことで同じく失敗を招くことも多々あるが。

人生には後から考えるとそういう魔の時っていうのがあるなァ。

そういうときはホント、時間よ戻れ!って思う。そういえば、小学校の頃「時間よ戻れ!」って叫ぶと世界がガラガラと崩れるという物語を読んだことがあったっけ。 なんという題名だか思い出せないな。

ウォルターは殺人犯の嫌疑をかけられ、社会的に抹殺されてゆく過程で、どうも悪いくじばかりを引いてしまうようにみえる。ダメな時は物事とことんダメに傾斜していく。

そこが、ハイスミスの上手いところで読者を惹きつけるわけだけれど。

印象に残った一文。

ある知人女性に対する気持ちで、翻って彼の妻に対する辟易感が手に取るように分るではないか。

ポリーは美人ではなかった。ヒップがおおきく、茶色の髪をうなじのところで束髪にゆっていたが、しかし、性格は実によかった。ウォルターにとっては、ほんのすこし彼女のそばにいるだけで、心の奥の満たされぬ思いがいやされた。ときどき無性に裸で日光浴をしたくなるときのような思いが。 (P35)

まぁ、そういうポリーと結婚したからといって、必ずしも幸福になれるとは限らないところが結婚の難しいところ。

夫婦っていうのも不思議なものだ。

悪妻二人” に対して1件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >ワインさん
    >こちらでは勝手にそう思うから、それが変な方向へ(自分に都合に良い方向へ)解釈されてしまうというわけです。

    恐いことですね。つい私も自分に都合よく解釈してしまいます。
    他人に迷惑かけないなら、自己満足してればいいのかも(笑

    おっしゃるようにウォルターがキンメルに近づいたのは、自分と同じ臭いを感じたからでしょうね。だから一目見てどうしても確かめたかった。
    それが悲劇の始まりだけど、妻に対するどす黒いような気持ちがそういう行動をとらせたのかもしれません。

  2. ワイン より:

    自分が誰かに対して不満をもっているときって、他の人間が自分が不満に思っている人についてちょっとした一言を発すると、妙に聞き耳をたてたくなりますよね。自分と同じような思いを他の人ももっているんじゃないか、っていう連帯感みたいなものが生まれるわけ。実はそんなものは向こうには全然なくても、こちらでは勝手にそう思うから、それが変な方向へ(自分に都合に良い方向へ)解釈されてしまうというわけです。
    ウォルターがメルキオール・キンメルに興味を持って近づいていった心理って、そういうものと近いと思いませんか?

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