その一語を探して

特別料理 (異色作家短篇集 2)

異色作家短編集2 『特別料理』 スタンリイ・エリン著/田中融二訳 (早川書房)

常連しか通さず、女性はお断り。メニューはなく、客は出された料理を食べるだけ。

暗い隠れ家のようなレストランだが、何故か出される料理はめっぽう美味い。

そして「特別料理」として、めったに出される事のないアミルスタン羊の味ときたら、

この世のものとも思えない格別のものだった・・・

読んでいくと、ああ、そういう事だろうなと分る。 が、小説の面白さはストーリーが分った上で、どれだけ面白く読ませるかがカギだと思う。

その意味で、文章をじっくり味わえ、噛み締めることができる一品だった。

私は大掛かりな道具立ての謎解きだけのミステリーは、そのトリックがどんなにすばらしかろうと、あまり好きじゃない。

辻褄あわせの報告書みたいな文章を読まされるのはつまらない。

何の変哲もないが、奇妙な味わいや余韻があるミステリーが好きだ。

特に短編ミステリーは、気の向いたときに何度も読んで、それでも面白いな、上手いなっていうのがいい。

これはミステリーに限らず、小説全てに当てはまる好みだけど。

訳者のあとがきは、エリンを訳することの困難さと愛着を述べていて面白かった。

このところ翻訳物を続けて読んでいるので、翻訳について書かれた箇所が印象に残った。

・・・クイーン氏の序文にもあるように一語一句に苦吟する作者の息づかいがまざまざと伝わってくる感じがします、時には語とイメージの“一対一”対応に近いものさえ感じられます。ある意味で翻訳者は語の選別者です。翻訳とは過去において各自が読み、書き、話し、聞くことによって蓄えた語彙の中から、ある外国語に近い意味を持つ国語をザクリとシャベルで掬いだして、その中から一つだけを残す作業です。 (中略)

いちじるしいのは語または句に含蓄される暗喩ということでしょう。むぞうさに捨てられたように見える一語一句が、全体を読み終えるまでに互いに呼応し、あるいは乱反射をおこし、その含蓄が全体の隅々にこだまを呼び、読み終えても耳のそこに余韻が聞こえる、といった巧みな構成も、エリンの作品の場合、稀ではありません。 (P282)

普段の生活でも、自分の思いにぴったりの言葉が見つかったときは嬉しい。

見つかって、共通の思いでその言葉を受け止めてくれる相手がいた時は、もっと嬉しい。