普通の人生
『生きる歓び』 橋本治 (角川文庫)
ごく普通の人たちのごく普通の哀しみ。
人生は何かを一つ一つ諦めていくことかもしれない。
けれどもその中で、たまには小さな幸福が見つかることもある。
それが生きる歓び、なのかもしれない。
・・・という著者の優しさを感じる短編集。
「みしん」は、母親なら誰でも経験するような話。
母親は自宅で洋服のリフォームの仕事しており、そのことに対して充実感を持っている。
ところがある日、高校生の娘が不祥事をおこしてしまう。
その晩、娘が「お母さん、自分のことばっかりね - 」 と言う。
言われた母親は、かつて自分も母親に対してそういう思いを抱いていたことを思い出す・・・。
親の子への気持ちと、子の親への気持ちは大抵一致しない。それで普通だ。
ある人への気持ちと、その人が自分へ抱く気持ちとは温度差があるのと同じだ。
それは哀しいかもしれないが、受け入れなければしかたがない。
受け入れて、又それから関係がはじまるのだから。
母親と娘って、知らず知らずのうちに同じことをしてることがある。それだけ影響が強いということなのだろうか。
私も、母親に反感だの、違和感だのを感じることもある。
でも、自分に子供が生まれて育てていくうちに、なぜか同じようなことをしているな、と思うことがある。
父親というのもそういうことがあるのだろうか。
9つの短編からフッと「人生そんなもんだけど、捨てたもんでもないよ」というハシモト氏の声が聞こえるようだった。