情念が川を渡る。
「極楽井」
古径の「清姫」が好きだ。今回はこれを見ようと思って「植物画展」の後に「小林古径展」へ。
清姫の話は、若い僧にしてみれば災難かもしれない。けれど乙女の一念を妄執に変えてしまったのは、男の若さゆえの浅慮かなぁ・・
清姫が一方的に想いを寄せるも、修行中の僧はそれを拒む。追って、追ってついには大蛇となって川を渡り、道成寺の鐘の中へ隠れた若い僧を焼き殺す・・。
古径の「清姫」は大きな川を前に、まだ可憐な姿の清姫が待ってとばかりに、はっしと手を伸ばしたところを描いたものだ。
横長の画面、半分以上を川が占める。清姫は川とも空間ともつかぬ迷いの世界へ突進していくように見える。
大作以外で、素描が多数展示されていたが、これが素晴らしかった。
動植物、風景、人物どれをとってもすこぶる正確な描写。静かに柔らかくベストな線を選んでいるような感じなのだ。
修練と才能の賜物。全ての基本になっているのだなぁと感じた。
素描を見るのは特に好き。何となく画家の鉛筆を握る手が想像されて、息づかいまで伝わるようで・・。
あと印象に残っている作品は「住吉詣図」
これは「清姫」と反対に縦長の画面。これまた、下半分以上が海になっている。
澄んだ青色の海に白い鳥が一羽、船が二艘、海は上へ向かって砂浜に朦朧と繋がり、さらに画面の、上4分の1ほどのスペースに描かれた住吉大社へと続く。
「清姫」と「住吉詣図」共に西洋のかっちりとした遠近法からはほど遠い、曖昧な空間だ。
精神的な距離感で描かれていると言えるのではないだろうか。
私は曖昧さの無い植物画も好きだけれど、こちらにも惹かれる。
脳味噌が緊張したり、弛緩したり、ヘトヘトになったけれど幸せな一日でした。
「道成寺 安珍清姫の話」
http://www.dojoji.com/index.html
「小林古径展」
http://www.momat.go.jp/Honkan/Kokei/