[展覧会] 光と影の絵師 小林清親展

少し前になりますが、川崎駅前のビルに入っている川崎浮世絵ギャラリーで開催中の「光影の絵師 小林清親展」を観てきました。

こちらはこじんまりとした施設で展示点数も少なめですが、良い作品を静かにゆっくり鑑賞できるので何度か訪れています。

小林清親(1847~1915)は明治に活躍した版画家で、伝統的な浮世絵に陰影法や透視図法を用いた遠近法をとりいれ、独創的な洋風木版画を確立しました。明治9年、それらの作品は版元の松木平吉により「光線画」と命名されて売り出され人気を博したそうです。

今回の光線画は夜景や夕景が多かったように思いました。夜の街灯に照らされる建物や人の姿、反対に逆光のシルエットを描いたものが印象的でした。文明開化で夜が明るくなった喜びもあるのかもしれませんね。

館内の作品は撮影禁止でしたので、下の画像は入口にあったパネルを撮影したものです。


《九段坂五月夜》

清親の描く風景は、従来の広重・北斎が描く風景とはどこか違って今の写真に似ていると思っていたら、説明書きに「横浜で下村蓮杖に写真術、ワーグマンに西洋画、東京で鍋島暁斎と柴田是真に日本画を学んだ」とあって、なるほど風景の切り取り方の基本が写真の構図なのかと納得しました。

 


《佃島雨晴》

原画は和紙なのでもっと柔らかい雰囲気です。空の淡い青と雲のオレンジと黄色がまるで印象派の絵のように感じられる作品でした。この作品のように外光の美しさをこのような色合いで描いた浮世絵は当時としてはとても新鮮だったのではないかと思いました。今でも十分魅力的で美しいですけれど。

また、清親の光線画で初刷りのものは黄色のラインで画面が縁取りされ、英文のタイトルも書かれているのが特徴とのことです。海外需要があったのか、西洋風へのあこがれか分かりませんが、面白いですね。

例えば《東京小梅曳舟夜図》は 黄色い縁取りの外側(作品下部)にNIGHTLY VIEW OF *HIKI-FUNE AT KO-OOME IN TO-KEI. *A BOAT IS GUIDED BY THE ROPES.(全部大文字)と黄色い縁取りの外に書かれています。

ネットで《東京小梅曳舟夜図》 がありましたのでご参考までに。

清親は洋画風な肖像画や美人画、動物画なども手掛けていますが、やはり風景画は明治という新しい時代を描いているので市井の人々の暮らしを含めて興味深いものがあります。

新しい時代を新しい手法で描いた清親は近代版画の出発点とも言えるし、同時に伝統的な浮世絵の師弟関係は一切ないにも拘らず「明治の広重」と称されるにふさわしい穏やかさと情緒を受け継いでいることに心惹かれました。

 

川崎市浮世絵ギャラリー 光と影の絵師 小林清親展