[展覧会] 夏の日のきらめき ‐ 清方一家の夏休み
先日、鎌倉の鏑木清方(かぶらき きよかた)記念美術館で開催中の「夏の日のきらめき – 清方一家の夏休み」を見てきました。
美術館は鎌倉駅から小町通りを鶴岡八幡宮に向かって歩き、中ほどにある細い道を左に曲がったところにあります。小町通りから少し入っただけですが、喧騒がすっと消えたように感じました。
清方は夏休みになると横浜・金沢の別荘で子供たちと過ごしたそうで、この企画展ではその時の家族の姿や、絵日記、草花や風景を描いたスケッチが展示されていました。また、小説の口絵や雑誌に掲載された作品などもあり、こちらも興味深かったです。
ポスターになっている《朝涼》は、月の残る早朝に長女と蓮田を散歩した様子を描いた大作で、日本画家として清方の記念碑的な作品とのことです。
早朝のひんやりした空気の中を行く長女の清らかな姿が美しく、隣を歩く清方の目が見た情景を描き出しているのがよく分かる構図だと思います。父の娘を思う心が伝わると同時に、若く純粋な時間の儚さや尊さのようなものを感じました。
『母の心』という小説の木版口絵も夏らしい作品でした。主人公である娘が夕風に髪を吹かれながら、ちょっと振り返って母の言葉を聞いている様子が描かれています。右下には白いユウガオ、庭にはナデシコが楚々と咲いてしっとりとした情緒が漂っています。制昨年は明治38年とあり、ゆったりと浴衣を着てくつろぐ様子は昨今の猛暑からは想像もできないような風情で羨ましい限りです。
どの展覧会を見ても、やはり植物を描いた作品は気になります。清方の描いた植物は良く観察した上で必要以上に細かくは描かず、特徴をとらえて端的に描かれているので勉強になりました。植物のスケッチはトウモロコシ、オシロイバナ、ヒマワリ、花オクラ、アサガオ、ツユクサがあり、清方が植物を好んで描いていたことが分かるような気がしました。
他には、一番上がガラスになっている展示台で、下の引き出しは自由に開けて作品を見ることができたのが面白かったです。バックヤードの収蔵品を見るような楽しさがありました。実は、自由に開けても良いと気づきませんでしたが、スタッフの方が教えてくださって助かりました。
作品の写真は撮ることができませんが、再現した画室と使用していた画材や絵具の展示は写真撮影可になっていました。
ついでながら、私は泉鏡花が好きで、清方がその挿絵や小説を題材とした日本画を描いていたことから好きになりました。こちらへは久方ぶりの再訪でしたが、今回も隠れ家的な美術館で清方の涼やかな作品を堪能できて何よりでした。