「小原古邨展」
茅ヶ崎駅からほど近い、茅ヶ崎美術館で開催中の「原安三郎コレクション 小原古邨 展」を見に行ってきました。
小原古邨(おはら こそん)1877(明治10)年~1945(昭和20)年は、当初は日本画家に師事して頭角を現し、その後明治末期には海外向けの「木版花鳥画」の版下絵を制作して人気を博したそうで、昭和に入ってからも主に海外で好評を得ていたとのことです。
作品が偶然大量に見つかったことが切欠となって開催された本展は、日本ではほどんど無名の存在だった古邨作品をまとまった形で見ることが出来る日本初の展覧会となっています。
《山百合と紋白蝶》
木版花鳥画と言っても一枚一枚、日本画の作品を見るようで、先ずそのクオリティーの高さに溜息が出ました。
伝統的な花鳥画を踏襲しつつ、線描だけではない近代的な形の捉え方や、練られた構図、視線を動かす工夫、季節ごとのモチーフの選び方や組み合わせ方など、絵師のとしての古邨の技量のすばらしさやセンスの良さが光っていました。
そして描かれた繊細な線を生かす彫師の技や、作品の透明感やモチーフの魅力を最大限に引き出す摺師の技法の数々は見事というしかありません。それぞれの分業のレベルの高さが奇跡的に美しい作品を生みだしているのだと実感しました。
作品の殆どは「大短冊」と呼ばれる縦40cm弱、横20cm弱の大きさで、縦長の画面がとても洗練されて魅力的でした。
ところで、驚いたことに館内は「全作品写真撮影可」なのです。額のガラスにライトや自分が写り込んでしまいますが、やっぱりちょっと撮りたくなりました。まあ、混雑やシャッター音を考慮すると、全作品可能というのは賛否が分かれるところでしょうけれど(笑)
でも、どんなに良い写真でも、図録でも実際に見ることに勝ることはありません。私は浮世絵も好きで見に行くのですが、その紙の質感や刷られた紙の凹凸具合、色の微妙な盛り上がり具合などを感じるのが面白いところです。手作業を感じるのが良いのかもしれません。
《波に燕》
《波に燕》部分 「きめ出し」という技法でしょうか?波が浮き上がって見えます。
《桜に烏》 これだけの色数なのに「なんて豊かな作品だろう」と思いました。烏の黒がすばらしい!
《枝垂れ桜につがいの雉》
《鶏の親子と蝶》 照明が写り込み過ぎですが…
《鶏の親子と蝶》部分
鶏の親子、桜の花びらが散っているので春、ヒナに目をやると蝶の引っ張り合い。色々な要素が見えてきて、だんだんと盛り込まれた物語のようなものを感じました。
うららかな春の日の戯れですが、蝶にしてみれば生死の境。人が感じる自然は美しかったり、残酷だったりです。自然は単なる自然なのでしょうけど。
ネットで展覧会の作品を一目見て余りの素晴らしさに「これは絶対行こう!」と思っていた展覧会でした。その後「日曜美術館」で紹介されたこともあってか、平日早い時間に現地に着いたにもかかわず結構な人が来ていました。館内で15分ほど待つ入場制限がありましたが、鑑賞自体はそれほど混雑は気にならなかったので助かりました。
午後には館外にも順番待ちの行列が出来ていたのでラッキーだったのかもしれません。
前期の作品が見られなかったのは残念でしたが、兎に角これほど美しい作品を見ることが出来たのは幸せでした。今回は会期も残り僅か、是非また開催してほしい展覧会です。
“ 「小原古邨展」” に対して4件のコメントがあります。
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>きよぴーさん
私も前期を見逃したので《芥子に金糸雀》見たかったです。これほどの人気ですから、近い将来また開催されると期待しています。
>版画作品ならではの、うっすらと木目が見えるものが好きです。
おお、同感です。背景に木目が見えて原画にはない独特な空間を作っているのが好きです。
>版木が持つ時の流れが、作品の中に見えるような気がするのです。
なるほど、そういう見方もできますね。
小原古邨展、行ってらしたのですね。
日曜美術館で紹介されるまで、全く知らない画家でしたが、
どの作品も、圧倒的な存在感を発するものばかりでしたね。
版画作品ならではの、うっすらと木目が見えるものが好きです。
版木が持つ時の流れが、作品の中に見えるような気がするのです。
前期を見逃したのが今更ながら悔やまれます。
>ワインさん
私も今回の展覧会で初めて知りました。どうしてこのような人が今まで埋もれていたのか信じられないくらいです。
>「桜に烏」とは、とてもユニークな組み合わせ!花の白と鳥の黒の対称が絵として際立っているのでしょう。それにしても、桜の花は桜らしくはなく、この世の花ではないみたいな抽象的な雰囲気ですね。
本当にそうですね。桜の花のこういう表現は面白いですね。モダンな感じもしました。
それにしても鳥って色や形がきれいで、それぞれ特徴があって描きたくなる生き物ですね。簡単には描けそうにないけれど。
小原古邨という名前は初めて耳にしました。木版画とは思えないほどはっきりとした美しい色彩ですね。「山百合と紋白蝶」は、小さな蝶が濃いピンク色の大きな花に上から圧倒されているような雰囲気で、植物の静と虫の動が逆になったような絵だと思いました。「波に燕」、とてもダイナミックで気持の良い作品ですね。燕ってとても早く飛ぶ鳥ですが、こんなポーズをよく思いついたものだと思います。そして、「桜に烏」とは、とてもユニークな組み合わせ!花の白と鳥の黒の対称が絵として際立っているのでしょう。それにしても、桜の花は桜らしくはなく、この世の花ではないみたいな抽象的な雰囲気ですね。版画の魅力が強く感じられる作品だと思いました。本当はこういう組み合わせも構図もありえないのかもしれないけれど、でも作品になるとなるほどね、と思わせてしまうところが芸術の面白さなのでしょうね。