「月岡芳年 妖怪百物語」

 原宿の太田記念美術館で開催中の「月岡芳年 妖怪百物語」を見てきました。

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月岡芳年(1839~92)は幕末から明治にかけて活躍した国芳門下の浮世絵師です。独特で繊細な美意識と大胆で躍動的な構図は現代でもとても新鮮で、会場では時間が経つのを忘れるくらいでした。

 

 芳年と言えば、老婆が妊婦を逆さづりにして包丁を研いでいる「奥州安達がはらひとつ家の図」が有名ですが(展示ありです!)同じ大判竪二枚続の「平維茂(たいらのこれもち)戸隠山鬼女退治之図」というのが印象に残りました。

 題材となっている話をザックリ言うと…ある日、維茂は戸隠山を訪れた際に美女に出会い酒盛りをするが、その正体が鬼女だと分かると退治した、という内容。

 

 「平維茂隠山鬼女退治之図」 https://ja.ukiyo-e.org/image/mfa/sc162667

 

 美女は艶やかに美しく、惑わされるのもさもありなんという感じです。着物は片輪車文で波間に紅葉もある模様かと思いましたが、紅葉は模様ではなくちょうど上から落ち葉や枝が振りかかっているもので、なかなか洒落ています。ちなみにこの鬼女の名前を紅葉というそうです。

 また、この作品では維茂が「川面」に写ったのが鬼だと気付いたところを描いていますが、別のでは「盃」に写っている場面になっています。水や酒に写って正体がバレるというのが面白いですね。

 「和漢百物語 鷺池平九郎」は農夫の平九郎が釣りに行って「巴蛇 うわばみ」を退治するという話です。絵は平九郎が川辺で釣り糸を垂れていて、釣り糸の下には大きなとぐろを巻いた得体の知れないものがいますが、平九郎は振り返って背後にある美しいアジサイを見ているので気づいてはいません。

 描いている場面が、退治しているところではなくアジサイを見ているところと言うのが何とも日本的な情緒を感じました。うわばみは青い水の中に線だけで描かれているので、目を凝らさないとよく分かりませんでした。

 「和漢百物語」が見られるサイト  http://www.benricho.org/Unchiku/youkai/08wakanhyakumonogatari/index.html

 絵を見ると植物にどうしても目が行くのですが、植物繋がりで印象に残ったのは「新形三十六怪撰 葛の葉きつね童子にわかるるの図」です。命の恩人のために娘に化けた葛の葉狐が、正体を知られ恩人との間に出来たわが子に別れを告げ去って行くという場面を描いたもので、障子ごしに見えるのは女性ではなく狐のシルエットになっています。その後ろから這い這いして追いかける童子が後の陰陽師・安倍晴明です。上から垂れ下がるクズの花が味わい深く描かれています。

 さらに「新形三十六怪撰 四ツ谷怪談」では母子が添い寝をしている一見和やかな風景が描かれていますが、帯が蛇の鎌首のように宙に浮かんでいたり、掛け軸が妙に大きいと思ったら「葛」だったり。葛の別名は裏が白く目立つから裏見草(うらみぐさ)です。四ツ谷怪談ですから当然「恨み」ということなのでしょうね。

 「新形三十六怪撰」が出版されたのが明治22年から25年だそうで、面白いことに在原業平がザンギリ頭になっていたり、構図や雰囲気が今っぽいところもあります。新しいものと古くからあるものとが混然一体となっていた当時を感じさせられました。

  

 「新形三十六怪撰」が見られるサイト  http://www.benricho.org/Unchiku/youkai/09shinkei36kaisen/index.html

 また、全体を通して注目したのは芳年が描く人物の横顔でした。ある時点から正確なデッサンの西洋風な横顔が登場してきて興味をひきました。だからといって年代が下ると全て西洋風かといったらそうではないようです。

 写実的な動きや臨場感あふれるものには西洋風な正確な顔や身体のフォルム、歌舞伎や様式美が求められるようなものには古典的な浮世絵風のインパクトあるフォルムと描き分けているようにも感じました。

 

 今回の展示はこの「妖怪百物語」が終わると「月百姿」が始まります。加えて横浜市歴史博物館でも「歴史×妖×芳年」を開催中です。芳年好きとしては嬉しい限り、出来たら全部見たいと思っています。

   

太田記念美術館 「月岡芳年 妖怪百物語・月百姿」

横浜市歴史博物館 「歴史×妖×芳年」

 「月岡芳年 妖怪百物語」” に対して2件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >ワインさん
    >なにか、異界の世界をちらっと垣間見るような、そんな余裕のようなものがないと、ますます息が詰まって生きるのが辛くなるような気もするのです。
    おっしゃるとおりですね。
    芳年を見て恐いとか恐ろしいというより、昔の日本人の情の深さや細かさやを感じました。
    でも、明治のあたりは今より激動期でしたから人の心も動揺していたと思います。そんな中で芳年の浮世絵って何か人の心をとらえる凄みがあったんじゃないかと思いました。

  2. ワイン より:

    なんとも素敵な(!)展覧会ですね。
    妖怪百物語なんて、夏にはぴったりですよね。・・・とはいえ、日本の夏、昔のように怖い話をして背筋がぞぞぞーっと寒くなるような夏ではなくなってしまったような気もしています。なにか、異界の世界をちらっと垣間見るような、そんな余裕のようなものがないと、ますます息が詰まって生きるのが辛くなるような気もするのです。

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