「ブリューゲル「バベルの塔」展」

 先日、上野の東京都美術館で開催中の「ブリューゲル「バベルの塔」展」を見てきました。

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 今回は兎に角《バベルの塔》をじっくり見たかったので、会場に入ってすぐに一番最後にあると思われるバベルを目指すことにしました。それというのも細密描写の作品が多く、順路にしたがって一つ一つ凝視していたら肝心のバベルでパワー切れの予感。気力体力充分なうちに傑作と対面したいですからね。

 途中を急ぎ足で通り過ぎてやっぱり最後にあった《バベルの塔》

 59.9×74.6cmとそれほど大きな作品ではないですが、画面から底知れぬエネルギーを放っているようで、そびえ建つ塔の存在感には言葉もありませんでした。

 

 彼方まで見渡せる水平の広がりや、天を目指す巨大な螺旋の塔はマクロ的、逆に限界まで追求した細部の緻密な描写は正しくミクロ的です。互いが調和しながら画面全体を支え、塔をより堅牢に造り上げているように見えました。

 また、建設作業をする人の大きさは米粒より細く小さく、2、3ミリ程度で、最前列の真正面から単眼鏡で見てもまだ小さいといった感じでした。作業の様子も当時の工法がリアルに再現されているそうで、レンガを上に運ぶ様子はレンガの赤い粉が下から上の階まで帯をなしています。さらに建造中の上層部はレンガが生々しく赤く、時間が経過している下層部はレンガの色が褪せている。そんなところも目の当たりにすると感動でした。

 赤い帯と対をなす白い帯は漆喰?(アスファルト、石灰など諸説あるそうです)を運びあげているところで、作業に携わる人たちは全身白い粉まみれになっているところまでリアルに描いてありました。

 同じフロアで上映されていた藝大による解説ビデオが素晴らしく、作品理解には欠かせません。塔の構造や中で働く人々などもCG映像で再現されていて、特に、人が滑車の内側をハムスターのように歩いて回すことで荷物を引き上げる様子は、ビデオを見なければ絶対に分からなかったと思います。

  

 聖書によるとバベルの塔は、人間が団結したり神をも恐れぬ高い塔を建設するのは彼らが同じ言語を使うからに違いないとして、神は人間が異なる言語で話すようにしてしまった。その結果、人々は混乱し塔は途中放棄されることになった、ザックリ言うとこんな話です。世界で異なる言語が使われていることの説明や、人間の傲慢に対する戒めなど色々な解釈があるようで意味深ですね。

 それを踏まえてこの《バベルの塔》を見ると、確かに団結すれば大きな力かもしれませんが、一人一人の人間の存在はあまりに小さく、弱弱しい。力を合わせて労働にいそしむ姿は健気ですらあります。

 ブリューゲルは徒労に帰するとも知らず建設にいそしむ人間を憐憫と愛おしさを込めて描き継いでいったのでしょうか。また、神にとっては怒りや脅威であるけれど、このようにとてつもないものを作り出す人間こそが尊い、と考えていたのかもしれないと思いました。

 

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ヨアヒム・パティニール《ソドムとゴモラの滅亡がある風景》

 他の作品で心に残ったのは風景画の開祖と言われるヨアヒム・パティニールの《ソドムとゴモラの滅亡がある風景》 A4くらいの小さな作品にも拘らずスペクタクル感があるのが凄いところで、巨石や滅ぼされる町もインパクトがありました。会場で見ると照明が暗いのか、作品自体が暗いのか、杖をついたロトと二人の娘が天使に導かれる様子は見逃しそうな程でした。ロトの妻は振り返ってはダメの禁を破り「塩の柱」になった後でここにはもういないようです。

 

 本展のもう一つの目玉のヒエロニムス・ボスの《放浪者》と《聖クリストフォロス》は、ボス特有の奇妙なものが描きこまれていたり、暗示やシンボルが満載で「読む絵画」の要素が多いのが特徴です。なので、画面を丹念に見ていくと色々な発見があり、考えさせられるのがボス作品の魅力です。まあ、解説を見ないと意味が全然分からないものが多々あり「なるほど、そういう意味だったのか」と作品でまた確認するのがちょっと忙しいですけれど。

 奇怪で猥雑な生き物を数多く生み出したボスですが、彼の死後ボス・リバイバルが起ってブリューゲルをはじめ多くの画家がボス風の絵や版画を制作しています。版画作品も多数展示されており

見るのも大変ですが、ボスは生前は版画を作らなかったそうです。よく目にする版画は全てボス風、オマージュだったと初めて知りました。

 ボスやボス風の奇怪な生き物が跳梁跋扈し、訳の分からぬ俗悪さやいやらしさ満載の作品がこうも興味をひくのは、普段は秘密にしている人間の奇怪で俗悪な部分が描かれているからだと思います。怪物は実に人間に似ているものがいます。それがどこかあっけらかんとにぎにぎしく描かれているのが私には面白いです。

 会場では階を行ったり来たりしたので、3時間くらいかかったでしょうか。疲れましたけれど「充実の細かさ」を味わいました。

 

公式 ブリューゲル「バベルの塔」展

東京都美術館

 「ブリューゲル「バベルの塔」展」” に対して1件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >きよぴーさん
    >バベルの塔、細密描写にただただ圧倒されました。
    そうですね。本当に凄いものを見ることが出来て良かったです。

    >最初から順を追って観て行ったので、バベルの塔に行き着いた頃にはぐったり疲れしまいました(汗)
    今回のは細かいし疲れましたね。最初のフロアの彫刻とか油彩も良かったし、バベルの前に見るものありすぎですよね。

  2. きよぴー より:

    先日、私も観に行きました。

    バベルの塔、細密描写にただただ圧倒されました。

    単眼鏡でじっくり見ましたが、見れば見るほどその世界の大きさに引き込まれました。

    最初から順を追って観て行ったので、バベルの塔に行き着いた頃にはぐったり疲れしまいました(汗)

    ヒエロニムス・ボスの奇妙な作品も、妙に惹かれました。

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