「生き物を描く サイエンスのための細密描画」

 箱根の手前、入生田にある神奈川県立 生命の星・地球博物館で開催中の「生き物を描く サイエンスのための細密描画」を見てきました。

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リーフレットと「生き物を描く」展示解説書

 今回の企画展で展示されている生物画は、いわゆる自己表現のためのアートではなく、特定の目的、例えば図鑑や論文のために描かれたサイエンスとして正確さの裏付けのあるイラストレーションになります。

ともすれば一人よがりなアート作品とは違い、優先されるべきは見る人に科学的客観的な情報を分かりやすく正確に伝えるということです。そしてそれがクリアされた上で精魂込められた作品は、人の心を揺さぶるようなアートとしての輝きを放っていました。

 まず私が一番見たかったのは故・杉浦千里氏の生物画です。以前同館で荒俣宏さんが魚類図鑑の講演を行った時のスライドでその作品を初めて知りました。今回実際に見ることが出来るとはなんて有難いことでしょう!

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ニシキエビ  左(オス) 右(メス) 

 

 杉浦氏はエビやカニなど甲殻類の生物画を手掛けていて、展示されているニシキエビは甲殻類特有の造形の妙が際立っていました。それは冷たい殻の内側から描き手の執念がジワリと滲んでくる…のも悟らせないほど静かで美しい作品でした。

 こんなすごい作品をどうやって描いているのだろうという疑問には、ご本人が(別の展覧会のためにですが)制作したという自筆の解説入りのパネルがありました。

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ヒラツメガニ 制作過程

 なるほど、こうやって描いているのかと分かりますが、そうそう描けるものではありません。

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ヒラツメガニ 完成作品

 川島逸郎さんの昆虫も見応えがありました。昆虫の体の作りはもとより、艶やざらつき加減まで点描で描き切っています。

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また、透明水彩で描かれたトックリバチやコアシナガバチの巣、鳥類のフクロウ目4種の風切(羽)が印象的でした。杉浦千里のアクリルとは違った、水彩の魅力を存分に活かした透明感のある微妙な色調と柔らかさが素晴らしかったです。

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フクロウ目4種の初列風切

 

 会場に「標本画の生命線」と題された川島さんの解説は的確で感銘を受けました。

人の手になる描画の真骨頂とは、その「目的」を踏まえた情報の「選択」に始まり、「強調と省略」にある、といって過言ではありません。― 中略 ― 科学に根ざした標本画の描き手の熟達とは、まさに、対象を前にしてそのような「見極め」ができるか、という点に掛かっているのです。

 もう一人、画家・絵本作家の舘野鴻さんの作品は正確さの中にも詩情が感じられて独自の世界観がありました。虫を見る目の優しさや敬愛が込められているように思いました。

 最後に植物画については、中島睦子さんの質の高いボタニカル・イラストレーションや、19世紀の精緻を極めた銅版画を見ることができたのも喜びでした。

 この企画展はイラストレーションとサイエンスを切り口に生物画を見るということです。生物画(博物画)がアートであるか否かではなく、見る人に十分な「情報」が伝わり素晴らしさや美しさを感じ、描かれたものへの興味を換気させる。人の心を動かすその力が素晴らしいと思いました。

神奈川県立 生命の星・地球博物館 「生き物を描く サイエンスのための細密描画」 

 「生き物を描く サイエンスのための細密描画」” に対して1件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    >もみじさん
    >植物も動物も生きている全てのものの美しさを表現するのが芸術なのでしょうね。
    そうですね。絶妙な色や形、敬意を持って描いていきたいですね。
    標本画の厳格さには学ぶべきところが多いと思いました。
    でも、絵画全体の大きなくくりから見れば生物は色々な描き方をされていますし、描き手が生物の何をどう表現したいのかを意識しながら描くことが大切ですね。

  2. もみじ より:

    植物も動物も生きている全てのものの美しさを表現するのが芸術なのでしょうね。
    動きのある動物を描くのも至難の業と思います。

    海老や蟹が画面から飛び出てくるようなリアルさ!
    素晴らしいですね。

  3. kyou2 より:

    >ゴンベッサさん
    >釣りを趣味にしているので良く感じますが生きて居る姿と
    >しんでしまった姿は別物、生きて元気な物は本当に美しいです。
    流石、実感がこもっていますね。生きている輝きって凄いものなんですね。
    私は植物しか描いていませんが、どんなものでも生命感を描くのって難しいですよね。

  4. ゴンベッサ より:

    釣りを趣味にしているので良く感じますが生きて居る姿と
    しんでしまった姿は別物、生きて元気な物は本当に美しいです。
    なかなか生きた姿をとどめる事は難しいのでどうしても
    動物は死んだ固体で輪郭、色は元気の良い時の写真
    になりやすい、まあアートだと身体の動きなどを現すのは
    写真参考ですよね。

  5. kyou2 より:

    >mapleさん
    >標本にしたものを描いているのかしら。
    カニやエビは先ず生きている時に写真を撮ってから(死ぬと色が変わるから)、中身を抜いて乾燥標本にしてから描いたとありました。
    昆虫も標本を元に描かれたようですが、生きているものも沢山見ながら個体差にとらわれない標準的な形を描くことも念頭に入れたようです。とても厳格な世界でこれは大変だと思いました。

    > こちらには生き物がいっぱいですが
    横浜のベランダーにとっては、植物も沢山あって本当に羨ましいですよ。

  6. maple より:

    標本にしたものを描いているのかしら。
    こちらには生き物がいっぱいですが
    大きな展覧会などこないので羨ましいです。

  7. kyou2 より:

    >きよぴーさん
    >その精密さに、圧倒的な存在感に
    >そして美しさに心奪われた記憶が蘇りました。
    そうでしたか。何だか本当に人間技とは思えないほど凄みがありますよね。
    それとアクリルが甲殻類にはぴったりだと思いました。

  8. きよぴー より:

    2年ほど前だったと思うのですが、
    神田の文房堂ギャラリーで杉浦千里氏の生物画を見ました。

    その精密さに、圧倒的な存在感に
    そして美しさに心奪われた記憶が蘇りました。

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