「没後10年 ロバート・ハインデル展」
横浜のそごう美術館で開催中の「没後10年 ロバート・ハインデル展」を見てきました。
ロバート・ハインデル(1938-2005)は、60年代に売れっ子のイラストレーターとして活躍し、70年代中頃から徐々にファインアートへと移行していきました。作品の特徴はバレエやミュージカルなどのダンサーを描いた点で、「現代のドガ」と言われているアメリカの画家です。
チラシにもなっている《ダンス オブ パッション》は最初に展示されている作品ですが、とてもインパクトがありました。
印刷ではキャンバスの麻布の上に直接描かれた質感が伝わらないので、実際に見るほうが断然優れています。絵具の使い方も素晴らしく、最小限で最大の効果を発揮しているのが実感できました。
作品説明に「私は完璧な肉体が発散する感情を描きたい。たまたま衣装を描いてしまうけど、それは私の主体ではない。」というハインデルの言葉がありました。作品は正にそれを具現しており、尊敬の念を抱きつつ描き切っているのが印象的でした。
さらに、興味深かったのはバレエとは全く異なる日本の能や歌舞伎を題材とした作品群で、「衣装は主体ではない」というバレエの作品を見てきた後ですから、逆に没肉体的にも見える能や歌舞伎ではどう表現されるのだろうと思いました。
幾つかの作品の中で、七代目菊五郎さんを描いた2作品がとても良かったです。Mylar paper(ミラペーパー)というツルツルしたビニールのような支持体に油彩で描かれたもので、それが油彩に独特な効果を与えているようでした。
作品は、衣装を描きながらも衣装が主張することはなく、かと言って衣装の中の人物がメインという訳でもないような、強いて言えば「歌舞伎」というものを描いたという感じでしょうか。歌舞伎をよく知らない私にもその魅力が伝わってきて、そこに画家の洞察力の凄さとリアリズムがあると思いました。
見終わって記憶に刻まれたのは、ピンとした身体と凛とした精神。我が身を振り返るとちょっとキビシイか。