「キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々」展
郡山市立美術館で開催中の「キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々」展を見てきました。
朝、横浜から車で出発して昼前に郡山駅に到着。昼食をとってから郡山市立美術館へ。美術館は郡山駅から少し離れた緑豊かで静かなところにありました。
美術館前に広がる石の庭
イングリッシュ・ガーデンを設えた展覧会の案内
展示はボタニカルアートを中心に、風景画、工芸品、モリスの壁紙やテキスタイル、またイングリッシュ・ガーデンを紹介した映像など。
とは言え、私はほとんどボタニカルアートばかり見ていたので、他はあまり覚えていません(笑)
好きな作品を幾つか。
マリア・シビラ・メリアン(1647~1717)の《サクラソウ類》は、画面いっぱいに様々な色や形のサクラソウが描き込まれている作品です。
解説によると彼女がキャリアの初期にパターン・ブックのために制作したものとありました。伸び伸びとモチーフが描き加えられている感じがあり、昆虫や植物を精巧に、鮮明に描くメリアンとしては柔らかな印象を受けました。
ゲオルグ・ディオニシオス・エーレット(1708~1770)の《イリス・ブルボサ》《ジギタリス》は、ヴェラム(羊皮紙)に水彩やグアッシュで描かれた作品です。色や形が非常にくっきりと鮮やかで、その明快さに心を打たれました。
植物の形の美しさや空間を切る強さをしっかり表現しなければ、という気持ちにさせられる作品でした。
ヴェラムというのは羊皮紙と訳されますが、紙ではなく動物の皮を薄くしたもの。紙と比べて染みこみが少なくそのために発色が良いそうです。確かに絵具が乗っているという感じがしました。
マーガレット・ミーン(1775~1824)の《ダリア属》《オウシュウグリ》もヴェラムに水彩で描かれた作品で、《ダリア属》ではキク科に見られる管状花(筒状花)と舌状花の描き方をじっくり観察。また、作品の一部には絵具が剥落したような箇所があり、先に書いたように染みこむ「紙」との違いが見て取れました。
《オウシュウグリ》はイガの部分に不透明な色や白を重ねてイガを表現、実のツヤ感も際立っていました。ほんの一枝の小さな作品ですが、確かな技術で衒いのない本物の美しさがありました。
さて、今回の展覧会で是非見たかったのが『フローラの神殿』です。これはロバート・ジョン・ソーントン(1768頃~1837)が私財を投じて編集した植物図譜。「複数の植物画家による背景のある植物画」というのが一番の特徴です。
展示された作品を見ていくと― 蜜(水滴?)を滴らせるゲットウはまるで泣いているよう。 咲き誇るニワシロユリは、一番下は枯れ始め、花びらがハラリとこぼれて儚げです。背景の大理石のあずま屋も意味深に見えます。ハスの背景には小さなピラミッド、手前はナイル川でしょうか。トケイソウの直ぐ後ろには石柱があり、どこか古代文明の雰囲気が漂っています…
私には描かれた植物が物語の主人公のようにも見えました。ボタニカルアートは植物を見たままに正確に描くもので、感情的、感傷的なものではありません。ある意味ドライというか、それがまた魅力でもあります。
けれど、『フローラの神殿』はそれとは正反対に感傷的、想像的でロマンチシズムがあります。こちらはウエットなボタニカルアートと言えるかもしれません。
好き嫌いが別れるところですが、ボタニカルアートの幅の広さというか、自由度を感じました。
時代が下って現代の植物画家の作品では、パンドラ・セラーズ(1936~)の《ムラサキクンシラン》が素晴らしかった。ムラサキクンシランというより、アガパンサスと言ったほうが通りが良いでしょうか。
横長の作品で、葉を挟んで手前側に紫の花・花の後の実、後ろ側に実が枯れて黒い種子が見えるものが描かれています。重なりあっている複雑な形が正確に描かれ、スッキリと過不足ない色彩は完璧。植物の美しさ、形の面白さが十二分に表現されていて感動。ずっと見ていたい作品でした。
展覧会は私にとっては幸い(と言っては申し訳ないけれど)とても空いていて心ゆくまで見ることができ、大変勉強になりました。優れた作品を直に見ることより学べることはないように思います。
展覧会の図録は、先日購入した本と同じもののようだったので、買わずに済み助かりました。
キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン―英国に集う花々
- 作者: スチュアートデュラント,大場秀章,クリストファーミルズ,Stuart Durant
- 出版社/メーカー: 求龍堂
- 発売日: 2014/04/01
- メディア: 大型本
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“ 「キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々」展” に対して4件のコメントがあります。
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> みちこさん
> 今、神殿にはまりそうで(笑)フローラの神殿、見たいです。
お~、何と言うか、みちこさんはいつも謎(笑)
この展覧会自体がフローラの神殿でしたよ。遠かったけど、行った甲斐がありました。
今、神殿にはまりそうで(笑)フローラの神殿、見たいです。
> きよぴーさん
> 私は先週、行って来ました。
そうでしたか。見応えのある展覧会でしたよね。
> 背景があることによってその植物の感情が引き出されているような気がして、ハッとさせられました。
その通りです。私も同じように感じました。なんだかこういう植物画を描いてみたくなりますよね。
植物画としては精度が足りなくても、絵画として魅力があることはそれを補って余りあるのだと思いました。
> 植物の成長の過程が無理なく同じ画面に収まっていながら、
> それぞれが伸びやかに描かれている
> 構成力といい、色合いといい、もうため息しか出ませんでした。
> アガパンサスを揺らす爽やかな風が、画面から吹いてくるようでした。』
別の画集で見たセラーズの作品も、構成が素晴らしく、植物のラインがとてもしなやかなんです。
ため息しか出ない、同感です。
私は先週、行って来ました。
『フローラの神殿』、こんなタイプの植物図譜があることを、
今回初めて知りました。
背景と描かれた植物のその関係が気になりました。
植物にも本当はいろいろな感情があるけれど、
普段はひっそりと感情を封印して花を咲かせている。
背景があることによってその植物の感情が引き出されているような気がして、ハッとさせられました。
パドラ・セラーズのアガパンサス、見惚れてしまいました。
植物の成長の過程が無理なく同じ画面に収まっていながら、
それぞれが伸びやかに描かれている
構成力といい、色合いといい、もうため息しか出ませんでした。
アガパンサスを揺らす爽やかな風が、画面から吹いてくるようでした。