「特別陳列 眞葛焼(まくずやき)」
神奈川県立歴史博物館で開催中の「特別陳列 眞葛焼(まくずやき)」を見てきました。
眞葛焼は京都の陶工宮川香山が、明治3(1870)年に横浜に移住し、翌年本格的な窯を築き、初代香山から三代香山まで受け継がれた焼き物です。横浜港から輸出され、立体的な装飾を施す「高浮彫」で動植物を忠実に再現し、海外で高い評価を受けました。
時代のニーズに応えデコレイティブな作風から変化し発展していった真葛焼でしたが、1945年の横浜大空襲で壊滅的な被害を受けその短い歴史を閉じたそうです。
京風の洗練された作品も素晴らしいのですが、高浮彫の作品は迫力が違いました。写実に対する執念が凄まじく、不確定要素が多い焼き物で完璧な再現を目指すのは想像を絶する技術と忍耐力だと思いました。
蓋の上に眠りから覚めた猫が乗っている水指は、猫の毛並みの繊細さは言うに及ばずで、口から見える細かい歯、耳の中の複雑で薄い感じ、前足の肉球など実に見応えがありました。
風神の袋、雷神の太鼓に纏わりつく鬼たちを配した花瓶は、膨らんだ袋の中にまで立体的に作られていて、一体どうやって焼いたのだろうと不思議なくらいです。
圧巻は「高取釉渡蟹水盤」で、本物と見まごう二匹の蟹が重なりあって水盤の縁にしがみついています。この焼き物は上絵付けではない釉下彩という技法によって作られているそうで、上絵付けに比べて更に深みのある独特な質感がありました。
高浮彫の作品は立体的で装飾過多であるけれど、色彩はどちらかというと抑えた感じで、見ていてケバケバしい感じはしません。それが、じっくりと質の高い写実を堪能できる所以かもしれないと思いました。また、装飾の意匠は非対称で絵画的。日本の花鳥図の立体版という感じがしました。
もう一つ「地中に埋もれた江戸時代の道具たち」という展示もありました。こちらは真葛焼のような鑑賞用の美術品ではなく、日常生活で使われていた品々です。
会場の入り口では、カラーで約30ページの立派なパンフレットまでいただけて有難い限りでした。
食器をはじめ、装身具、仏具、子供のおもちゃ、お金等々。磁器、陶器、漆器、金属製、木製、ありとあらゆる出土品で江戸時代のかながわの暮らしぶりを知ることが出来ます。
実際に人が使っていたものだけに、朽ちた木の下駄を見た時は「この上に人の足があったのだ」と思うとちょっと不気味でした。
企画展二つを見終わって常設展を見ましたが、こちらは旧石器時代から現代ですから膨大です。
印象に残ったのは古代人の器用さで、石のヤジリが繊細に削られていてびっくりしました。力のある人が大きな岩から石を切り出し、手先の器用な人がそれを何かで削っていたんでしょう。
土器の縄文の付け方もサンプルがあってよく分かりました。植物の筒状の茎で○○○や((( と付けていたことや、貝殻の端で波模様~~~を付けていたとは知りませんでした。
だいぶ時代が飛びますが、江戸時代のところで面白かったのは、豊国(三代)の《気合同子春の楽》(きのあうどうしはるのたのしみ)という浮世絵です。
豊国(三代)の《気合同子春の楽》画像:国立国会図書館デジタルコレクションより
三枚のつづきで、こたつに入りながら三味線をひいたり、歌を歌ったり、寝転んで雑誌を読んだりしています。これは例の「女子会」というものでは?
他にも近くて遠い「懐かしい昭和の暮らし」や、失われつつある伝統行事の展示も興味深いものがありました。
常設展はざっと見るのはもったいない内容でした。是非もう一度ゆっくり訪れたい博物館です。
“ 「特別陳列 眞葛焼(まくずやき)」” に対して4件のコメントがあります。
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>ワインさん
>眞葛焼という陶磁器の名前、初めて知りました。明治時代にこのようなものが作られていたのですね。
短命の焼き物で、幻の焼き物といわれているそうです。
高浮彫の作品の他にもすっきりとしたものもあって、アジサイやツバキの花瓶がきれいでした。
余談ですが、雪の後に行ったので馬車道の街路樹が結構折れていてびっくりしましたよ。
眞葛焼という陶磁器の名前、初めて知りました。明治時代にこのようなものが作られていたのですね。このような技術は日本人の得意とするところで、高い評価を得た素晴らしい工芸品なのだと感じました。素敵な展覧会をご紹介くださってありがとうございました。見に行くのを楽しみにしています。
>みちこさん
いつも有難うございます。
>是非見たいと思っています。これだけの焼き物の技術は、特定の職人でないと実現できなかったのではないでしょうか。
特定の職人でさえも、かもしれません。パンフには装飾部分に由来する歪みで完成に至らず、世に出なかった物も多いと推測されるとありました。
>常設展は、何回か通いたいですね。
ご一緒できたら嬉しいですね!
是非見たいと思っています。これだけの焼き物の技術は、特定の職人でないと実現できなかったのではないでしょうか。常設展は、何回か通いたいですね。