「益田 一と日本の魚類学」

 色々ありまして更新ができませんでしたが、またポツポツ再開です。

 夏休みに家族で箱根の温泉に一泊して、入生田にある「神奈川県立 生命の星・地球博物館」へ行ってきました。

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 正面入口から入ると恐竜の化石がお出迎え。見上げると高い天井の絵とよく合って良い感じに。

 開催中の企画展「益田 一と日本の魚類学」に、ボタニカルアート教室の方が携わっておられるというので、それが切欠で是非行ってみようということになりました。

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 益田 一氏(1921~2005)は、魚類の研究にダイビングや水中写真を積極的に取り入れた先駆者で、日本産魚類の分類や分布の研究を飛躍的に進歩させたとのこと。

 中でも、当時の皇太子殿下(現在の天皇陛下)を含む日本の魚類研究者を結集し、氏が筆頭編者として完成させた『日本産魚類大図鑑』は世界に誇れる業績だそうです。

 展示内容は、潜水して小魚を採集する様子、拠点となった伊豆海洋公園での新発見の魚や、氏が名前をつけた新種の標本、図鑑作りの撮影セット、日本と世界の魚類図鑑がありました。

 面白かったのは図鑑作りの撮影セットで、機材は方法は意外とシンプルに見えました。その分、熟練の技で制作していた感じがしました。

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「標本撮影」

 標本にするために深海で採取した魚は、一気に上に上げると死んでしまうので「減圧バケツ」というものに入れて、水深30メートル、15メートル、5メートルと徐々に上げていき、数日かけて生きた魚を運ぶそうです。現在もこのような方法を使っているのかわかりませんが、実に手間がかかったものです。

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「減圧バケツ」

 普通のバケツが何とも親近感、創意工夫です。適度に隠れる感じが、中にいる魚にとって良いのでしょうかね。

 水槽撮影は岩の下に潜っていて撮影しづらい魚、濁った水の中にいる魚、死ぬと色が変わってしまう魚に有効で、水槽内に魚が生息していた環境を再現して(捕獲時に砂や生えている植物を一緒に取ってくる)撮影するそうです。

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「水槽撮影」

また、魚を撮影する時や標本を作るのに不可欠な、魚の体形を整え、ヒレを広げてピンで固定する展鰭(てんき)または鰭立(ひれたて)と呼ばれる作業が興味深かったです。

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「発泡スチロールの皿の上で展鰭された魚」

頭は左と決まりがあるそうですが、どうしてでしょう?

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「使用する虫ピン、最小の微針の直径は0.1mm」

極細の針、触ってみたい。

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「展鰭の作業」

大変そうですが、ピンセットを使ってヒレを広げるのは楽しそう!

良い写真を取るためには良い標本を作らなければならなく、生きた魚を強力な麻酔薬で安楽死させ、死後硬直や変色が起こらないうちに展鰭することが必要だそうです。迅速に、繊細に!ですね。

魚類図鑑は、写真ではなく博物画の時代のものも展示されていました。

★ 日本の図鑑

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『原色日本魚類図鑑』(1921)  

日本初の原色魚類図鑑

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『原色魚類検索図鑑』(1963)

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『原色学習ワイド図鑑:魚・貝』(1971)

益田一氏の標本写真を使った最初の図鑑

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『日本産魚類大図鑑』(1984)

益田一氏が筆頭編者。1988年の改訂版では収録数3360種、内2965種がカラー写真。この改訂版以降、日本の既知種全てを網羅した図鑑は作られていないとのこと。

★世界の図鑑

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「ルナールのモルッカ諸島魚類誌 復刻版」(1718~1719)

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「ブロッホの魚類図譜 復刻版」(1785~1795)

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「ブリーカーの蘭領インド魚類誌 復刻版」(1862~1878)

 この企画展で初めて益田一という人物を知ったわけですが、水中写真家から始まって魚類学者として世界に誇れる図鑑を作り上げたことは、ひたすら尊敬するばかりです。

 海の中を泳ぐ魚の美しさ、興味深さをつぶさに見た人だからこその感動が、益田氏の原動力であったのではと思いました。

 長くなってしまったので、常設展(こちらも面白かった)については後日。

神奈川県立 生命の星・地球博物館

「益田 一と日本の魚類学」” に対して4件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    もみじさん
    >魚類図鑑を完成させるまでのご苦労は大変な事だったでしょうね。
    本当にそうですね。しかも「日本産魚類大図鑑」は世界に誇れる質と量ですから凄いものです。
    図鑑は魚も植物も見て楽しいので大好きです。昆虫図鑑は苦手かな。

  2. もみじ より:

    魚類図鑑を完成させるまでのご苦労は大変な事だったでしょうね。
    日本と世界の図鑑を見比べてみて、日本の原色魚図鑑のなんと緻密で美しいこと。
    日本の技術の素晴らしさを再認識させられます。

  3. kyou2 より:

    >みちこさん
    バケツ渋いですよね。なんか身近で面白かったので写真撮っちゃいましたね。
    >呆れるほど時間を掛けて馴らしながら運び、殺すときは一突きで。
    それはまた、味に対して呆れるほどの執念、とでも言いましょうか。贅沢な話ですね。
    >科学者の感性を持っていらしたのですね。
    潜って撮れる科学者、実に爽やかでカッコいいですね。

  4. みちこ より:

    ここまで丁寧に解説していただけると、わざわざ博物館に行かなくても楽しめます。あれ?変かな?
    捕獲から撮影まで、どの話も興味深いですが、減圧バケツは渋い!深海は暗闇ですから、バケツの中も暗くしておいたのでしょう。テレビで回転寿司店のドキュメントをやってまして、ぶりを関西から関東までトラックで運ぶのですが、ぶりに精神的ストレスがかかると味が悪くなるそうなんです。それで、呆れるほど時間を掛けて馴らしながら運び、殺すときは一突きで。
    益田氏は、元は写真家でいらしたそうですが、科学者の感性を持っていらしたのですね。

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