「はじまりは国芳 江戸スピリットのゆくえ」展

横浜美術館に「はじまりは国芳 江戸スピリットのゆくえ」展を見に行って来ました。

展示は国芳とその一門からはじまり、月岡芳年、鏑木清方、伊東深水と連なる系脈をたどっています。

先月まで太田記念美術館で催された「没後120年記念 月岡芳年展」には残念ながら行けなかったので、この展覧会では芳年ばかり見ていました。

芳年は無残絵などがあり、好き嫌いも別れるところですが、私は繊細な線と情念のこもった絵にとても惹かれます。

今回印象に残った作品は、縦長(A4を縦に2枚くらい)の《俊寛僧都於鬼界嶋遇康頼之赦免羨慕帰都之図》です。康頼は赦免されるが、俊寛一人鬼界嶋に取り残された場面を描いたものです。

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《俊寛僧都於鬼界嶋遇康頼之赦免羨慕帰都之図》

詳しくはこちらの国立国会図書館デジタル化資料で

岩場に立ち、絶望的に腕を伸ばした俊寛。荒れる海と波間から遠ざかる船も小さく入れて、縦長の画面にピタリと収まっていて素晴らしいです。

特に目を引いたのは波の先端の表現で、よくあるタコの足のような丸い波ではなくバラの棘のように鋭い先端で、芳年の波は違うなぁ、と感じました。

縦長の作品は5点あり、有名な《奥州安達原ひとつ家の図》もありました。安達ヶ原に棲む鬼婆が、逆さ吊りになった妊婦の腹を裂いて胎児の生き血だか、肝だかを奪おうとしている図です。残酷な内容ではありますが、密やかに進行する惨劇に想像力が掻き立てられます。

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《奥州安達がはらひとつ家の図》

あばら屋の中では壮絶を極めますが、目を転じると家の外には「ユウガオの白い花と長い実」が見えます。これが妙に静かで美しいのです。

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《奥州安達がはらひとつ家の図 部分》

芳年の同じ主題を扱った《一ツ家 尾上菊五郎》という作品でも、鬼婆のうしろにユウガオが見えます。

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《一ツ家 尾上菊五郎》

何故2つの絵にユウガオが描かれているのだろうと気になりました。

はじめは長細いのでヘチマかと思いましたが、ヘチマの花は黄色いのでどうもユウガオのようです。ユウガオは丸いものが干瓢作りによく見られるのですが、細長いものもあり、形は様々なようです。

調べてみると、毒性があるものもあり、腹痛、下痢、嘔吐などを引き起こすそうです。

自然毒のリスクプロファイル(厚生労働省HP)

ユウガオにこんな恐ろしい面があるとは知りませんでした。毒を意識して、安達原の鬼婆の絵に描き込まれたものなのでしょうかね。よく分かりません。

芳年の他で興味深かったのは、横浜で活躍した五姓田芳柳と息子・五姓田吉松、娘・渡辺幽香の五姓田派でした。正に江戸から明治へ「浮世絵から油絵(洋画)」を体現していました。

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渡辺幽香《幼児図》

《幼児図》は臼を付けられながらもトンボを捕まえる幼児を描いたものです。額縁は幅が広く、幼児らしく玩具の絵が施されていましたが、幼児は強い意志と生命力を感じさせるものがありました。

全て見終わって振り返えると、浮世絵の町絵師が激動の時代を乗り越え、時代を映す絵師から、個の主題を描く画家・芸術家へと変化していく流れを感じました。

横浜美術館

                  

「はじまりは国芳 江戸スピリットのゆくえ」

「はじまりは国芳 江戸スピリットのゆくえ」展” に対して1件のコメントがあります。

  1. kyou2 より:

    > monksiiruさん
    今年もよろしくお願いいたします。
    > 太田記念美術館の芳年の特別展は都合が合わずに行けなくて
    そうでしたか。お互い残念でしたね。

    > なんというか繊細さが見事なんですよね。藤原保昌月下弄笛圖などの静寂な一場面も見事に描いていて技量の高さを感じます。
    そのとおりですね。独特な、神経質な感じの繊細さがなんとも言えません。

    > 奥州安達がはらひとつ家の図は6年くらいまえに東京国立博物館でたまたま展示してあって釘づけになりました。
    繊細な描写がなければ単なるグロテスクな絵になってますね。
    そういえば、東博で今年10月くらいに岩佐又兵衛筆の洛中洛外図屏風(舟木本)が展示されるようで、今から楽しみにしています。

  2. monksiiru より:

    kyouさん、こんにちは。
    横浜美術館でこんな素敵な展覧会があったのですねぇ。
    太田記念美術館の芳年の特別展は都合が合わずに行けなくて昨年は芳年目白押しだったんだと今更ながら悔やんでおります。
    芳年は無残絵、血みどろ絵が有名ですが国芳の弟子だけあって武者絵などもこれまた素晴らしいです。なんというか繊細さが見事なんですよね。藤原保昌月下弄笛圖などの静寂な一場面も見事に描いていて技量の高さを感じます。
    奥州安達がはらひとつ家の図は6年くらいまえに東京国立博物館でたまたま展示してあって釘づけになりました。内容のおどろおどろしさと腰巻の赤が目に焼き付いいています。夕顔の毒なるほどです。
    黒塚の舞台は埼玉の大宮あたり(足立群で足立が原という場所があったそうです)という説を知りびっくりした記憶があります。
    そういえば、雪女の話も東北と思っていたら青梅だったみたいなものでしょうか。
    今年もどうぞ、よろしくお願いします。

  3. kyou2 より:

    >にしおかさん
    こちらこそ随分ご無沙汰してしまいました。またボチボチという感じです。
    U字工事の自虐的?お国自慢はいいですよね。カンピョウって地味に美味しいし。
    展覧会、私は平日に行ったのですが、結構空いていましたよ。

  4. kyou2 より:

    >みちこさん
    いつもコメントくださって有難うございます。
    芳年や国芳の構図は本当に斬新で面白いです。この展覧会ではこういう斬新さ、奇抜さはだんだんと無くなってくる感じでした。
    ユウガオは別の「一ツ家」にもあって気になるところです(笑)

  5. にしおか より:

    ごぶさたいたしております。ブログ再開、こっそりと喜んでおります。
    U字工事の漫才で「カンピョウの9割は栃木産」と言ってましたが、ユウガオってカンピョウの材料だったんですね!どちらも勉強になります。
    「残酷な内容ではありますが、密やかに進行する惨劇に想像力が掻き立てられます」の箇所にグッときました。寒くなったのを出不精の口実にしてますが、この展覧会は観ます。

  6. みちこ より:

    アップしてくださった芳年の2枚の絵は、構図が素晴らしいですね。色のバランスも素晴らしい。
    鬼婆と妊婦では、妊婦の白いまん丸の饅頭のようなお腹が、切るまでもなく滴り落ちそうで、不思議な絵です。
    背景の夕顔に着目したのはkyouさんらしいな。

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