「カポディモンテ美術館展」
先週、上野の国立西洋美術館で開催の「カポディモンテ美術館展」を見てきた。
今回の目的は何と言ってもマニエリスムの画家、パルミジャニーノの《貴婦人の肖像(アンテア)》とイタリア・ルネサンスの巨匠、マンテーニャの《ルドヴィコ(?)・ゴンザーガの肖像》を見ること。
入口から入ると、いきなりお目当てのマンテーニャの作品があった。
マンテーニャ《ルドヴィコ(?)・ゴンザーガの肖像》
縦25センチ、横18センチほどの小さな作品だが、緻密な画面に吸い込まれた。
マンテーニャはマントヴァ領主、ゴンザーガ家の宮廷画家として招かれ多くの作品を残している。
描かれたのはゴンザーガ家の若い高位聖職者のようだ。青年の品の良さと、どこか幼げな横顔が美しかった。
近くで見ると、細やかで確かな筆致が見て取れる。形に沿ったハッチングが画家の手を感じさせて、ルネサンスが身近に感じられるようだった。
ポスターにもなっているパルミジャニーノの《アンテア》は間違いなくこの展覧会の目玉。
パルミジャニーノ《貴婦人の肖像(アンテア)》
この美しい肖像画については、ずっと前から読んでいた澁澤龍彦の『幻想の肖像』に書かれていたので、実物を見られて感激も一入だ。
モデルは高級娼婦とも画家の愛人ともいわれている女性。無表情な白い顔に黒い瞳だけが異様な緊迫感で見つめている。
暗く落ち着いた色調なのだが、ずっと見ていると、不安がつのってくる感じがする。
わずかにひねった身体、右肩から手袋をはめた手までの異常な大きさ、ヒトデのような左手の指は所在無さそうにネックレスに引っ掛けられている‥‥
テンのショールは、むしろ彼女より活き活きしているよう。近くで見ると細かい歯をむき出し、実に不気味だ。
精神と肉体の理想的な美しさを誇ったルネサンスとは明らかに違う、人間の鬱屈した内面を感じさせる肖像画だ。
パルミジャニーノ《凸面鏡の自画像》
パルミジャニーノというと、この凸面鏡を用いた自画像が有名だ。アンテアは右手、パルミジャニーノは左手が大きく描かれている。
自画像は美しい顔はそのままに、意志や性格が出る手を怪物のように変形させているところが興味深いと思う。
他に印象に残った作品はフランチェスコ・グアリーノの《聖アガタ》で、とてもモダンな感じがした。
フランチェスコ・グアリーノ《聖アガタ》
聖アガタは信仰と純潔を守るために、権力者からの求婚を断り、拷問にかけられて乳房を切り取られたという聖女。
聖女というにはあまりに官能的な表情で、死の陶酔感に浸っているようにも見えた。
ジェンティレスキの《ユディトとホロフェルネス》はカラヴァッジョの影響が濃厚で、流石にインパクトがあった。
アルテミジア・ジェンティレスキ《ユディトとホロフェルネス》
カラヴァッジョ《ホロフェルネスの首を斬るユディト》
女流画家である彼女は暴行された後に、この作品を描き上げたと解説にあった。
侍女と二人がかりで殺しているところに、男性に対する強い憎悪が感じられた
。
カラヴァッジョのユディトは、大それた行為の緊張感で硬直しているように見えるが、ジェンティレスキのユディトは、少し硬い肉でも切るように、逞しい腕を振るっているようにも見えた。
普通の主婦何人かで男をバラバラにする桐野夏生の『OUT』を連想した。
久しぶりにコッテリ濃厚な展覧会だったが、作品数が少なかったので、それほど食傷気味になることもなく見終えることができた。
個人的にはマンテーニャの絵が見られただけでも満足な展覧会だった。
“「カポディモンテ美術館展」” に対して2件のコメントがあります。
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> みちこさん
このあたりの絵画はつくづく人間中心だなぁと、とりわけ肉体の迫力に負けそうになります。
> さっぱりとした性格、こまめな性格、温厚な性格…手によく出ています。それに、耳占いというのもあって、耳の形にも性格が良く出るようで興味深いですね。
手は面白いですね。何気ないしぐさとかも。単純に生活も出ますよね。あ~、この人ちゃんと家事をしているな、とか、少女の手はまだ何もしたことない手だなぁとか。男優でも手の美しい人が好きです。
耳ですか、言われてみれば色々な形がありますね。悪魔の耳はとんがっているし。大仏さんは副耳ですし。耳の形自体もちょっと奇妙ですね。
どれも技術が完璧なだけに、迫力がすごいですね~。
あまり関係ないですが、kyouさんが、「自画像は美しい顔はそのままに、意志や性格が出る手を怪物のように変形させているところが興味深いと思う」と書かれているのが興味深い。
意思や性格が手にでる、と私も最近思い始めて、気になる人の手を診ます。さっぱりとした性格、こまめな性格、温厚な性格…手によく出ています。それに、耳占いというのもあって、耳の形にも性格が良く出るようで興味深いですね。