『天才画の女』
『天才画の女』 松本清張 (新潮文庫)
有名絵画コレクターの寺村素七は、銀座の画廊・光彩堂からある大家の油絵を購入すると、オマケとして女流新人画家・降田良子の絵が付けられていた。
彼はその絵の斬新で誰にも似ていない画風に惹かれ、光彩堂に彼女の絵を集めるよう指示した。
降田良子は一流画廊や有名コレクター、お抱え評論家によってブームがつくられ、個展も成功した。
一方、光彩堂のライバル画廊・叢芸洞の支配人の小池は、新人画家を発掘した妬みもあって、当初から謎めいた彼女の作品制作に疑問を抱いていた。
小池は真相を探るべく彼女の郷里へと旅立ち、そこから次々と興味深い事実が分かってくる。
降田作品の真相を暴いていくミステリーだが、美術に造詣の深い松本清張が、画廊の商算や評論家の打算をいやらしいほどリアルに炙り出しているのがこの小説の一番面白いところかもしれない。
親の財産を蕩尽して、女を変えるたびに落ちていくという、風呂敷画商(店を持たず渡り歩く画商をそう呼ぶらしい)の原田という人物についても「端正な容貌の五十男である。洋服がぴったりと似合うが、よく見るとその生地がかなり疲れている。ただ手入れがよいのでアラが見えないといったところである。」と書いている。
原田の虚勢と悲哀をいとも簡単に描いていて、作家の目とは恐いものだなぁと思った。
清張自身が工業デザイナーの経歴があり、自ら小説の表紙も描いたというから美術に詳しいのもあたりまで、以前読んだ『真贋の森』や『青の断層』『小説日本芸譚』はどれも読み甲斐があった。
それらに比べると『天才画の女』は、やや軽い感じで、当の降田良子が不甲斐ないのが何とも残念だった。