『水の眠り 灰の夢』
『水の眠り 灰の夢』 桐野夏生 (文春文庫)
1963年(昭和38年)9月、週刊誌記者で“トップ屋”の村野善三は、地下鉄銀座線で爆破事件に巻き込まれた。
その事件は「草加次郎事件」と呼ばれる一連の爆破事件だった。
彼は連続爆破事件の「草加次郎」と名乗る謎の犯人を追う最中、女子高生殺害事件の容疑者となってしまう‥‥。
村野善三は『顔に降りかかる雨』などで活躍する女探偵・村野ミロの父親とされる人物で、本書はその番外編と言った感じ。またミロの実父についても明かされていて、ミロシリーズが好きな人には面白いかも。
1960年代の高度成長期のエネルギッシュな光と、反対に一層濃さを増した社会の闇、人の心の暗部が虚実織り交ぜた形で書かれているのが、この小説の面白いところ。
「草加次郎事件」も実際にあった迷宮入りの事件だが、著者は独自の犯人像を描いていて興味深い。
そういう時代の雰囲気は面白かったが、ストーリー自体はありがちな感じもした。
60年代とはこんな時代だったのか、と1960年生まれの私は感慨深かった。