『老人のための残酷童話』

老人のための残酷童話 (講談社文庫)

『老人のための残酷童話』 倉橋由美子 (講談社文庫)

老人や老い、長寿社会に纏わるあれやこれやを題材にした短編集。10篇収録。

乾いた毒とユーモアがまぶされているが、全体にインパクトに乏しく読後は空疎な感じが‥‥。

そんな中でも以下の3篇は印象に残った。

『ある老人の図書館』

地底に向かって何十キロも螺旋状に続く図書館へ毎日通っている老人がいた。図書館の本は壁の一方に並べられていて、彼はそれを端から順に読み続けているのだった。

読書は彼にとって食物の摂取と同じで、必要なものは消化・吸収して体を作り、不必要なものは滓として排泄されるのだそうだ。

次第に彼を意識する館員はいなくなり、数年経ったある日、彼の所在を確認しておかなければと捜索がはじまる‥‥

しかし、古い本が血管内壁のコレステロールのように壁にこびりついた、果てしなく続く廊下に足を踏み入れることには誰もが尻込みをしました。あのとぐろを巻きながら地底深く下りていく構造の書架兼閲覧室は、もはや図書館員の立ち入るべきところではなく、読書という病的な嗜好にとりつかれた人だけが棲むべき異界のように思われるのでした。 (p19)

幻想味が面白かった。このごろ図書館へ行っていないなぁと思いつつ読んだ。

図書館の意味や必要性も変わっていくだろう、過去の遺産にはなって欲しくないと思うが‥‥。

『臓器回収大作戦』

近頃多発する奇妙な殺人‥‥どの被害者も臓器移植された臓器だけを抜き取られて殺されていた。

真相は、近年臓器移植の多発で鬼籍登録にアイデンティティの混乱が生じた冥界が、対策としてこの世に執行官を派遣し、残された臓器を取り戻しにきたというものだった‥‥

『地獄めぐり』

ある老夫婦が地獄巡りツアーに参加することになった。

大きなアーチ形の門のある地獄の入口から中へ入ると、各種地獄は様変わり、飽食地獄、ダイエット地獄、温泉地獄等々、時代を反映したものになっていた。

案内人はその場で入獄予約すれば、入獄金も20%オフ、安楽死の提供、死亡届などの手続きの代行等々、案内人は調子よく勧めるのだが‥‥

面白かったのは、おじいさんが「何もしないでぶらぶらと夢うつつでいられる天国はどうか」とおばあさんに話したら、

「私はそんなナマケモノみたいな生き方はいやだわ。たとえ苦痛や恐怖があっても、次々に新しい体験をして充実した生活を送りたい」とおばあさんが答えるところ。

私もそうなのだが、現代人はただ生きているだけでは生きている価値がなく、いつも何か充実感を得られる事をしなければ意味がない、という焦燥感に駆られているような気がする。

でもそれは、下手をすれば生きている間中苛まれなければならない「生き甲斐地獄」というのもかもしれないなぁと思った。