「江戸園芸花尽くし」
「オルセー美術館展」を見た後に、太田記念美術館で「江戸園芸花尽くし」を見た。
浮世絵に描かれた「園芸」に特化した展覧会で、期待度大。花好きにはたまらない企画だ。
江戸時代の初めから天皇や将軍など上流階級で愛好されていた園芸が、太平の世を背景に、徐々に庶民層にまで裾野を広げ、一大園芸ブームが起こったことは有名だ。
大きな庭を持たない一般の人々が鉢植えを購入し、育てる楽しみと鑑賞する楽しみを味わう。
花見や菖蒲園、藤棚など、外に繰り出す物見遊山とは違った花の楽しみ方がそこにある。
大木の風格を目指す盆栽や、珍奇種が目をひく変化朝顔、鉢や水盤などにも凝りに凝る。品評会、番付で競い合う楽しみもある。
生活に余裕のある者もない者も、それぞれのレベルで花を楽しみ、花が身近にあったことが浮世絵から見て取れた。
成熟した文化は、どこか平成の今と似ている感じがした。
歌川国芳《百種接分菊》(部分)
カタログによると、これは一本の木に接木して百種の菊花を咲かせたもので、ある植木屋が品評会に出品したものだそうだ。
天秤棒を担いで売り歩いた魚売りのように、「植木売り」というのが盛んだったようで、役者が扮した植木売りの絵が沢山あったのも面白かった。
また、子供向けの「おもちゃ絵」で、一枚に沢山の種類の植物と名前が描かれたものがあった。
図鑑を見ているようでとても楽しい。子供が「あいうえお表」のように覚えたりしたのだろう。
もう一つ興味深かったのは、如雨露(ジョウロ)。果たしてこの形でどれだけ雨露の如く水が注がれるのかと首をひねった。
とくに歌川芳虎《座しき八景の内 上漏の松の雨》が面白く、何とも色っぽい手つきだったので模写してみた。
こちらは少し大型で筒が長いタイプ。
葛飾北斎《画本狂歌 山満多山》(部分) 太田記念美術館蔵
どちらも柔らかく水を与えるのが目的だろうが、効率は悪そうな‥‥。根元へは手桶から柄杓で水をやるのが基本だったのだろうか。
縁日や夜店で売られている植物の種類も多く、根を藁や紐で巻いたものなどは今とまったく同じ方法のように見えた。
また、「菊屋」という植木屋を描いたものは、販売はもとより隣接した庭園の散策、鉢植鑑賞、二階建の茶店で飲食と、「植木屋が一つの観光スポットのようになっていた」と解説にあった。
どの浮世絵からも、四季の花々を楽しむ心のゆとりが感じられ「豊かさとは何か」ということを思い起こさせる展覧会でもあった。
展示替えが多く、見逃した作品多数。加えてカタログにはかの「おもちゃ絵」に描かれた植物名もすべて印刷されていた!‥‥で、今回は迷わずカタログを購入。
カタログは価格と、実物との色味の違いなど考慮して、どの展覧会でも悩ましいところだ。