『利休にたずねよ』
『利休にたずねよ』 山本兼一 (PHP研究所)
侘び茶を極め、美の絶対者として君臨する利休。一方、信長亡き後天下を統一した秀吉。
小説は利休の切腹から始まり、秀吉との確執を中心に様々な人間を絡ませながら、時間を遡ってゆく。
その中で利休の美意識の根底にあるもの、侘びの中に潜む艶の秘密が明かされる。
為政者や茶人や女性たちはそれぞれの思いを秘めて、茶の湯と向き合う。
政治の道具として、精神の鍛錬として、美の創造として、安らぎとして、私には茶の湯というものがどういうものかよく分からないが、人生を飲み込んでしまうほどの魔力がある恐ろしいものに思えた。
若き日の悲恋が小説の核心で、利休は想い人の形見、高麗の緑の香合を生涯密やかに愛でていた。
厳しい茶の湯の世界の話というより、どちらかというと恋愛小説という感じで、ちょっと私にはニガテなところもあった。
利休の妻・宗恩は哀れだった。
利休にとっては長年の従順より、一瞬の美が勝ったということかと思う。
宗恩が女の影を感じつつ終生仕えていたにも拘らず、彼が最期にとった行動は実に残酷なものだった。
聡明な宗恩は或いはその予感があったのかもしれないが‥‥。
彼女は利休が生きている間、気難しい夫に生活の隅々まで心配りを要求されていて、それに良く応え、けして彼にとって不相応な妻というわけではなかった。むしろ良い妻、良き理解者だったはずだ。-けれど「それだけ」だったのだ。
利休と同じ世界の住人ではなかった。彼と同じ世界に住んでいたのは遠い昔の高麗の女だったのだ。
奇しくも、理不尽な死を毅然と受け入れるという最期まで同じだったのだから。
宗恩が最期に見せた激情を、利休が生きている間に見せたのなら、また違った夫婦であったかもしれない。
しかし、利休という存在は、あまりに強大すぎたのだろう。