『モンス・デジデリオ画集』復刻版
『モンス・デジデリオ画集』復刻版 解説/谷川渥 (エディシオン・トレヴィル)
図書館でしかお目にかかったことがなかったトレヴィルの「ピナコテーカ・トレヴィル・シリーズ」のうち、モンス・デジデリオが8月に復刊になるというので予約して、先月届いた。
モンス・デジデリオ《偶像を破壊するユダ王国のアサ王(聖堂の倒壊)》
いつでも見られると思って安心して、最近やっと解説を読んだ。
読んで‥‥「えっ、モンス・デジデリオって一人じゃなかったんだ!」と驚愕の事実。
どういう事かというと、モンス・デジデリオなる人物は、フランソワ・ド・ノーメとディディエ・バッラという二人の人物が部分的に重なり合って出来上がったようなのだ。
ディディエというのはデジデリウスの通俗的な短縮形で、モンスはムッシューのイタリアなまり、モンス・デジデリウスとなり、名前の上からはモンス・デジデリオはディディエ・バッラのことになるそうだ。
しかし、彼の絵は遠近法的景観画持ち味だったようで、破壊と崩壊の画家からは程遠い。
そこで登場するのが、フランソワ・ド・ノーメ。彼の画風こそ、私たちがモンス・デジデリオと認識するものなのだ。
そして何故その二人が混同されたかといえば、二人が同郷で、同じくらいの年齢、しかも同じナポリにやってきて、ある時期「共同制作」までしたからなのだ。それがいつしか歴史の闇に吸い込まれ、二人が同一人物となり、モンス・デジデリオという名前だけが残った。
さらに、モンス・デジデリオという画家が再発見されたのも20世紀の半ば、デジデリオ研究の最終決定版と目される書物が出たのも1990年代ということだった。
この書物によると、デジデリオの名で伝えらる作品254点は、次のように分類されるそうだ。
A:フランソワ・ド・ノーメが描いたもの135点
B:言及されてはいても確認しえないもの13点
C:ディディエ・バッラが描いたもの24点
D:模倣者か追随者かの手になるもの、共同制作によるもの82点
いやはや、まったく知りませんでした。以前、ある展覧会で「フランソワ・ド・ノメ」と書かれた名前の横に、通称 モンス・デジデリオと書いてあり、意味が分からなくて、ブログの記事にマヌケなこと事を書いてしまった。知らなかったこととはいえ、猛省。
ピナコテーカ・トレヴィル・シリーズの復刊は復刊ドットコムで知った。次は「ジョン・マーチン画集」が出るそうだ。私の好きなカルロ・クリヴェッリの日本語の画集は知っている限りでは、このシリーズしかないと思う‥‥。クリヴェッリの分厚い洋書は購入したが、意外と作品が少なくてちょっと落ち込んだ。
「カルロ・クリヴェッリ画集」もこの調子で復刊してほしいなぁ。