「特別展 インカ帝国のルーツ 黄金の都シカン」

国立科学博物館で開催中の「特別展 インカ帝国のルーツ 黄金の都シカン」に足を運んだ。

今回は同展が行っている「1日ブログ記者」を体験させてもらうことができた。

シカンというのはアンデス文明の一つで、9世紀からチムー王国に征服された1375年ごろまでペルー北海岸で栄えた文化で、卓越した彫金技術を誇る黄金国家として、インカ帝国のルーツと言われているそうだ。

しかし、このシカンは長く歴史の闇に包まれていて、考古学者も顧みることなく神殿ピラミッド群も崩壊しつつあったという。

そこに初めて光を当て、シカン文化を蘇らせたのが日本人考古学者の島田泉教授(現南イリノイ大学教授)で、1978年、当地に一人で足を踏み入れられた後、30年間にわたり発掘調査を続けておられるとのことだ。

尚、「シカン」というのは先住民の言葉で「月の神殿」を意味し、島田教授によって名づけられたそうだ。

会場に入るとまず、シカン文化学術調査団(PAS)が発掘に使う道具などが目をひいた。シンプルなのに驚くと同時に、現地の人たちも交えた忍耐強い作業が想像できた。

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*写真は全て主催者の許可を得て撮影したものです。

黄金国家として、また宗教国家としてのシカンを代表するのが、《シカン黄金大仮面》と《シカン黄金製トゥミ》だ。

共に角張った輪郭とアーモンドアイが印象的なシカン神がモチーフとなっている。

(画像はこちらの公式HPにあります。)

トゥミというのは儀式用のナイフで、生贄の首を切り、生き血を採るためのもの。

この黄金のトゥミを飾るシカン神は、一見幼児のように見えた。それは素朴さと残忍さを兼ね備えているようで、一層恐ろしい感じがした。

黄金文化の素晴らしいシカンだが、私には黒色光沢土器と呼ばれる土器の美しさが一番印象に残った。

土器というと縄文とか弥生を連想するが、それらとは全く違う質感で、もっと硬質なハリと輝きを持った土器だ。

なるほど、金属を好むシカンの人々が作り出した土器という感じがした。

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黒色光沢土器作りを再現したビデオ(各所にそれぞれの説明ビデオがあり、大変分かりやすかった。)によると、まず型に粘土を入れ形を作り、乾燥させ磨いて整形した後、地面に薪(アルガロボの木)を敷き、その上に磨いた土器を置き、さらに動物の糞(と言っても粉とか藁のよう)で覆って焼いていた。

途中蓋を開けて糞を投入しながら900~1000℃で焼くそうで、土器としては焼成温度が高いと思った。

真ん中にシカン神の顔のある土器は、側面に手のような、耳のような出っ張りが付いている。それはよく見ると蛇の頭になっていた。

口を開け、大きな鍵のような舌を出している蛇の形はパターンなのか、他にも大きなものがあった。蛇は夜空を象徴していると説明に書いてあった。

蛇をはじめ、ヒキガエル、ザリガニ、魚、瓜、トウモロコシ、人物、舟、ちょっと不気味な幼虫までも土器になっていて土器が人々の暮らしを語っているようだった。

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黒色光沢土器、織物、貝細工、どれをとっても高い技術力で、シカンは交易によって発展した経済国家でもあったようだ。

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興味をひいたのは副葬品として未完成のままの貝殻やビーズも沢山納められていたということ。これは一抱えほどの量があった。

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シカンがどういう生死感なのかよく知らないが、死後も新しいアクセサリーを作る必要があったから材料として必要だった? などと想像するのも面白かった。

もう一つ、心に残ったのは金属加工用のハンマーストーンだった。

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説明によると高密度で粒子の細かい玄武岩が使われ、職人の命ともいえるものだそうだ。

職人たちがこの道具を使い、優れた品々を生み出していったのだ。使い込まれ、それ自体が磨き上げられた玉のような道具を見ていると、そこに確かに人間が存在していたのだというリアリティが感じられた。

「特別展 インカ帝国のルーツ 黄金の都シカン」公式HP

今回はマイミクのTakさんより同展の「1日ブログ記者」のお知らせをいただき、幸運にも採用されて無料&写真撮影可&記念グッズと嬉しい特典つきの鑑賞でした。

お知らせくださったTakさん、本当に有難うございました。

美術ブログといったらここ!→Takさんの「弐代目・青い日記帳」