『ジオラマ』
『ジオラマ』 桐野夏生 (新潮社)
表題作を含む9編の短編集。
『錆びる心』をすこし希薄にしたような感じか。希薄になった分、現代的な感じもした。
面白かったのは「デッドガール」「蜘蛛の巣」「ジオラマ」
「デッドガール」
客と入ったホテルで、フト気が付くと見知らぬ女が立っていた。彼女は何事もなかったように話しかけるが‥‥
終始、腐臭が足下によどんでいるような小説だ。
「蜘蛛の巣」
ある日、高校のクラスメイトと名乗る女から電話がかかってくるが、全く思い出すことが出来ない。しかし彼女は自分の事を実によく知っているのだ‥‥ラストに楽しみが待っている。
「ジオラマ」
男は地方の銀行勤め。妻の希望で社宅生活に終わりを告げ、マンションを購入したばかりだ。
ある夜、彼はコンビニで真っ赤な髪の毛の、派手な服を着た女を見かける。
一方、妻から階下の住人が足音が五月蠅いと苦情を行ってきた、と聞かされる。実はその住人こそ例の赤毛の女だった。男は急速に階下の存在に心惹かれ、そして‥‥
男は近くの施設にあるジオラマが好きで、飽きもせず何度も見ているという。
それは原始時代の稚拙な模型で、狩りをして獲物を持って帰る夫らしき男性と、それを迎える妻とおぼしき女性などが、おもちゃのように配置されているものだ。
見慣れて安心できるもの、その世界を全て知っていると思っていたものでも、その実、全然理解していなかったり、またそれが容易に崩壊するものだということを教えてくれる。ジオラマはその象徴だ。