『顔に降りかかる雨』
『顔に降りかかる雨』 桐野夏生 (講談社)
ある朝、歌舞伎町のマンションに住む村野ミロのもとに、友人の燿子が付き合っている成瀬と言う男が押しかけてきた。
聞けば、燿子が大金を持って失踪したとのだと言う。彼はミロが彼女と共謀しているのではないかと疑っていた。
しかも、その大金はヤクザから成瀬が預かった金で、表沙汰に出来ない金だというのだ。
ミロは成瀬に強引にそのヤクザの会社に連れて行かれ、そこで社長の上杉に、成瀬と共にその金を一週間で取り戻すよう恫喝される。
こうしてミロは、否応なく危険で謎めく世界に足を踏み込むことになった‥‥
燿子がノンフィクションライターと言うことで、ネオナチやボンデージ、死体写真愛好家など、エキセントリックで過激な世界が展開し、小説に彩りをそえる。
しかし、そういう多彩な彩りより燿子の「高卒魂」のようなコンプレックスの方がこの小説を面白くさせているように思った。派手な演出がなくても、地味でも的確な描写があればずっと面白い。
全体に鬱々とした雨のイメージだが、ミロはしなやかに強かに雨を弾く女性に思えた。