『植物画の至宝 花木真寫』
『植物画の至宝 花木真寫』 源豊宗・北村四郎/監修・執筆 (淡交社)
陽明文庫は、近衛家によって伝承された多くの古文書や古美術品を収蔵したもので、公家文化を今に伝えるものだ。
『花木真寫(かぼくしんしゃ)』はその中の一つで、江戸時代の文化人、近衛家熙(いえひろ)(1667~1736)によって描かれた植物細密画で全三巻の巻物。
植物学的な正確さと芸術的な美しさを兼ね備え、日本における植物画の嚆矢とされていて、本書には3巻の125図全てが収録されていている。
この本を手にした切欠は、科博コンクールの表彰式で植物画家の西村俊雄先生の講評があり、そこで『花木真寫』について言及されたことだった。
昨年東博で行われたに「宮廷のみやび―近衛家1000年の名宝」展でご覧になったこと、作品の素晴らしさや日本人の感性、花を描く姿勢などについてお話をされた。
私は後悔先に立たず、見逃していた展覧会だったので落ち込んでいたが、幸いにも本書が出ていたと分かり早速取り寄せたという訳だ。
初めて一通り見終えて、なんと優美で柔らかく品のよい図譜だろうと思った。
現在の目から見れば、間違っている描写もあるそうだが、かなり正確な植物図譜であることは間違いなく、当時の園芸植物などを特定するのに大変役立つということだ。
植物画として、奇をてらわず、植物の自然な形で且つその植物が美しくみえるように、鑑賞者がその植物についての理解と感動を得られるように描いているのが素晴らしいと思う。
家熙の言葉として「形をよく見て心に会得して、それをいで画にうつす」とあったが、なるほどなぁと実感が湧く。よく見て構造を理解して描いたものと、単に見たまま描いたものとでは全然違うものになるだろう。
植物画や博物画は、第一に対象の正確な描写がなければならないと思うが、『花木真寫』には日本人が昔から持っている花鳥風月を愛でる心や四季折々の風情が感じられて、そこが西洋の植物画にはない味わいになっていると思った。
本書の解説に近衛家の系図が載っていて、それを見ると家熙の母親は修学院離宮の構想を立てるなど芸術面に秀でた後水尾天皇の娘だと分かった。家熙は祖父の血を受け継いでいたのだろう。
あれっ後水尾天皇といえば、そうだ、この前読んだ隆慶一郎の『花と火の帝』のメインキャスト。こんなところで繋がっていたとは‥‥ちょっと嬉しい。